大隈記念館(佐賀市) ※写真と本文は無関係です |
人口問題を取り上げた経済記事では、人口減少をマイナスの事象と捉えて、人口を増やすにはどうしたらよいのかを論じるものが多い。だが、今回の特集はそうした前提に囚われない構成になっていた。その点も評価したい。
例えば日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が執筆した「『デフレの正体』を世界に~日本 中国 シンガポール 米国の人口動態から読む世界経済の行方」という記事では、以下のように述べている。
【エコノミストの記事】
そもそも人口減少は悲観するべきことではなく、むしろ将来への希望だ。地球は際限ない人口増加に耐えられない。日本を含む東アジアや欧州で、戦争や疫病が原因ではなく自然に人口が減り出したことは、食料や水、エネルギーの不足を遠ざけ、人類の生物種としての存続の可能性を広げている。しかも減少はごくゆっくりだ。今の出生数から言えば日本の人口はいずれ7000万人程度までは減るが、それでも欧州との比較では最大級であり、小国に転落するわけではない。
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まさにその通りだ。個人的には、日本の人口は1000万人もいれば十分だと思う。「人口減を食い止める対策を進めないと、日本人は消滅する」などと危機感を煽る人もいるが、戦争や疫病ではなく各人の選択の結果として子供が減り、日本列島から日本人がいなくなるのであれば、それでも構わないと考えている。
日本列島に住む人の数が2億、3億と増えていく未来には「破滅」の香りが漂う。人口減少にはもちろんマイナスの側面もあるが、総合的に見れば「どんどん増えるよりはるかにマシ」ではないか。
特集の中にあるグナル・ハインゾーン氏へのインタビュー記事「ユース・バルジ テロの原因は『人口の不均衡』アフリカ、中東発の危機が多発」 の中で同氏が興味深い数値を示している。ちなみに、記事に出てくる「ユース・バルジ」とは「若者の膨らみ」という意味らしい。
【エコノミストの記事】
日本に関していえば、江戸時代末期(1870年ごろ)3000万人強だった人口は、1930年ごろに6500万人と倍増した。1家族に5人子供がいることが普通で、ユース・バルジの状態にあった。そのとき、日本は何をしただろうか。隣国を侵略したのだ。
現在、先進国はどこも少子化で、1人しかいない子供を戦争に送って戦死させるわけにはいかない。家族が絶えてしまうからだ。
このように、その国が戦争に向かうのかどうかについて、ユース・バルジをさらにわかりやすく説明しようと、私が考案したのが「戦争指標」だ。男性の年齢階層のうち、55歳から59歳までの間もなく引退を迎えるグループと、15歳から19歳までのこれから社会で競争していくグループの2つを比較し、どれだけ社会に活躍する場が生まれるかを測る指標だ。
1000人が引退して年金受給者になれば、社会の中に1000人分のポジションが空くはずだ。単純に計算し、2つのグループの人数が1対1であれば、次の世代に仕事があるということだ。ちなみに日本の戦争指標は0.82。つまり1000人が引退したとき、若者は820人しかいないため、理論上は全員が仕事に就けるということだ。
アフリカの戦争指標をみてみよう。最悪のザンビアは7.0.ウガンダ、ジンバブエは6.9だ。ザンビアでは1000人分の職業を巡り、7000人の若者が競い合わなければならない。戦争指標が3以上の国は、若者の社会不安が大きいと言え、何らかの形で暴力に訴える危険性が高い。
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個人としては「人口減少歓迎派」なので、少子化も容認というより歓迎している。「少子化対策は要らない。出生率を引き上げようなどとは考えず、生まれてきた子供を社会全体で大事に育てていけばいい」との立場だ。
ハインゾーン氏の分析は「若者がたくさんいる社会」の問題点を浮き彫りにしている。こうした点はもっと注目されていい。日本に関しては「自分たちが未成年だった頃よりも、今の子供は大切にされている」と感じることが少なくない。少子化が子供たちを大切にするインセンティブを社会に与えているのだろう。「若者が少ない社会」は必ずしも悪くない。
少子化が進んで人口が減れば、1人当たりの国土面積は増えていく。いずれは食糧自給を達成し農産物の輸出超過国になる道も開けてきそうだ。しかし、そうした点には光を当てず「このままでは経済が縮小して日本は衰退する。少子化対策を進めて子供を増やさなければ…」といった前提で作っている経済記事が多すぎる。今回のエコノミストの特集は人口問題の切り口という点でもバランスが取れていた。
※特集全体の評価はB(優れている)。黒岩亜弓記者への評価も暫定でBとする。
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