2016年9月14日水曜日

週刊エコノミスト特集「シン・円高」のタイトルに異議あり

週刊エコノミスト9月20日号の特集「シン・円高」は参考になる記事も多い。だが、映画「シン・ゴジラ」に引っかけたタイトルには賛成できない。その理由を述べてみる。
山口県下関市側から見た関門橋 ※写真と本文は無関係です 

◎理由その1~分かりにくい

映画「シン・ゴジラ」を劇場で観ていたこともあり、個人的には「シン・円高」というタイトルに分かりにくさは感じなかった。大ヒット映画なので世間の認知度も高いだろう。だが、映画を知らない人も当然いる。そういう人にとっては意味不明のタイトルだ。表紙には、福沢諭吉の背中がゴジラ化しているイラストを載せているが、これも「シン・ゴジラに引っかけたんだな」と一瞬で分かるものではない。


◎理由その2~必要性が乏しい

シン・ゴジラ」の「シン」が何を指すかは明確ではないようだが、ここでは「新」との前提で話を進める。「シン・円高」とのタイトルを付けるのであれば、「これまでの円高とは違う新たな円高」「ゴジラの衝撃に匹敵するような超弩級の円高」などを描いていなければおかしい。しかし、特集はそうした内容に乏しい。

特集の冒頭で谷口健記者と池田正史記者はこう書いている。「今年のドル・円相場は、すでに約20円の円高が進んだ。当面は円高基調になる可能性も出てきた」。これでは「確かに『シン・円高』だな」とは到底思えない。

そもそも記事にはゴジラがほとんど出てこない。簡単な映画の説明を特集に差し込んで、その中で「日米金融政策が生み出す円高の衝撃は、ゴジラをも上回る?」と述べているだけだ。これで「シン・円高」というタイトルを付けるのは無理がある。「話題の映画に安易に乗っかった」と言われても仕方がない。

「人目を引くタイトルでないと雑誌が売れない」との反論はあるかもしれない。分かりにくくて必要性が乏しくても「シン・円高」というタイトルにすれば大幅な販売の上積みが可能ならば、「正解」なのかもしれない。ただ、読む側の立場で言えば、納得できないものは残る。

ついでに、特集に関していくつか注文を付けておく。

◎「円高」は「弱気相場」?

表紙には「シン・円高」のタイトルの下に「日銀の総括的検証が呼び込む弱気相場」との文字が見える。「弱気相場」とは下げ基調の相場を指す言葉だ。円を基準に見るならば、円高を「弱気相場」と表現するのは奇妙だ。筆者らの言いたいことは分かるが…。


◎「大統領選50日以内」とは?

谷口記者と池田記者が書いた「黒田総裁の言動に『異変』 日米金融会合で一段の円高も」という記事には「図2 1990年以降はリーマン・ショック直後を除き、大統領選50日以内に大きな金融政策変更はない」というタイトルの付いたグラフが載っている。「大統領選50日以内」とはどの時期を指すのだろうか。「大統領選までの50日以内」か「大統領選から50日以内」のどちらかだと思うが判然としない。

記事には「大統領選前に大きな金融政策の方向性は変えていないのは歴然である」とのくだりがあるので、「大統領選50日以内大統領選まで50日以内」との推測はできる。だが、分かりにくいのは確かだ。「大統領選前の50日間に大きな金融政策変更はない」などとしてほしかった。


◎「企業の経常収支」?

黒田総裁の言動に『異変』 日米金融会合で一段の円高も」という記事からもう1つ。「日本総研の試算でも、16年度の平均レートが1ドル=102円で推移すれば企業の経常収支は前年度比5%減少する」という説明が引っかかる。「経常収支」とは国際収支に絡んで出てくる用語で、企業業績では基本的に使わない。単純に言い換えるならば「経常損益」だろう。今回の記事の場合は「企業の経常利益は前年度比5%減少する」とした方が良さそうだ。


◎輸入が減ったから人民元切り下げ?

富士通総研主任研究員の柯隆氏が書いた「SDR入りでも消えないジレンマ 元切り下げは政府の有効手段」という記事の中に理解できない記述があった。

【エコノミストの記事】

中国政府は2015年8月、人民元の対ドルレートを切り下げ、国際金融市場に大きなショックを与えた。日本では、12年から続いた円安進行を止め、円高へ折り返す転機となった。

なぜ人民元の為替レートを下落させる必要があったのか。最大の要因は、15年に輸入が前年比13.2%のマイナス成長になった点である。さらに、16年に入っても、貿易の減速は止まっておらず、1~6月は輸入だけでなく輸出もマイナス成長となった。

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記事の説明を信じるならば「輸入減に危機感を持ち、輸入促進のために自国通貨の為替レートを引き下げた」という流れになる。ただ、一般的に言えば自国通貨安政策は輸出促進を狙ったものだ。

色々と考えてみたが、筆者の意図は理解できなかった。「風が吹けば桶屋がもうかる」的な説明は可能かもしれないが、この記事では「最大の要因は、15年に輸入が前年比13.2%のマイナス成長になった点である」と書いてすぐに輸出へ話が移っているので解読が困難だ。

時期の問題もある。「15年に輸入が前年比13.2%のマイナス成長になった」ことを理由に「2015年8月、人民元の対ドルレートを切り下げ」るのでは時期が合わない。15年8月の時点では15年の輸入の減少率が「13.2%」だとは分かっていないはずだ。


※長くなってきたのでこの辺りで終わりにするが、特集の中には他にも色々と問題点が目に付いた。特集全体の評価はD(問題あり)とする。暫定でDとしていた谷口健記者への評価はDで確定とする。暫定Cの池田正史記者は暫定Dに引き下げる。谷口記者に関しては「市場分析に難あり 週刊エコノミストの谷口健記者」でも触れている。

※今回の特集に関しては「利上げ検討『世界でFRBだけ』?週刊エコノミストへの疑問」も参照してほしい。「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」という説明の誤りを指摘している。

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