中津城(大分県中津市) ※写真と本文は無関係です |
問題の記述を見ていこう。
【エコノミストの記事(1)】
FRBが「世界で唯一利上げを模索できる中央銀行」であることを標榜し、ドル高を引き受けてくれたからこそ4年連続の円安は実現したのである。
【エコノミストの記事(2)】
結局、「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」という前提が変わらない以上、FRBが再び利上げに前向きになれば(たとえ実際に利上げをしなくても)世界中の“運用難民”がドル建て資産に殺到することは不可避である。
【エコノミストの記事(3)】
当面は「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」という事実が変わりそうにないため、こうしたドル全面高に始まる「ドル高の罠」からFRBは抜けることはできず、それゆえにドル高相場も持続しえない、というのが筆者の見立てである。
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これに対し、以下の内容でエコノミスト編集部に問い合わせを送った。
【エコノミストへの問い合わせ】
9月20日号の特集「シン・円高」についてお尋ねします。特集の中の「ドル独歩高を許容しなくなった米国 連続利上げは難しい」という記事の中で、筆者の唐鎌大輔氏(みずほ銀行国際為替部チーフマーケット・エコノミスト)は「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」と繰り返し述べています。しかし、そうは思えません。例えば、野村證券は8月22日時点での南アフリカランド相場の見通しに絡んで以下のように解説しています。
「金融政策においては、2015年7月以降、累計1.25%ポイントの利上げにより政策金利は7.00%に引き上げられました。野村證券では、SARBが11月に0.25%ポイントの利上げを実施し、2016年末の政策金利は7.25%になると予想します」 (注)SARB=南アフリカ準備銀行
8月26日には「南アフリカ準備銀行(中央銀行)のミネル副総裁は26日、インフレ率は高止まりし通貨ランドの大幅な変動が物価に影響していると指摘し、中銀の利上げサイクルは終了していないとの見解を示した」とロイターが報じています。
6月30日にはメキシコも0.5%の政策金利引き上げに踏み切っています。こうした点を考慮すると「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」とは考えられません。
唐鎌氏は「FRBが『世界で唯一利上げを模索できる中央銀行』であることを標榜し、ドル高を引き受けてくれたからこそ4年連続の円安は実現したのである」とも書いています。しかし「4年連続の円安」の間にもFRB以外の多くの中央銀行が利上げに踏み切っています。実際に利上げをしているのですから、当然に「利上げを模索できる中央銀行」でもあったはずです。
そもそもFRBが「世界で唯一利上げを模索できる中央銀行」だと本当に標榜してきたのかとの疑問も残ります。常識的に考えれば、FRBがそうしたことを公言するとは思えませんし、個人的にもそうした報道に触れた記憶はありません。
FRBに関する唐鎌氏の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題ないとすれば、その根拠も併せて教えてください。
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エコノミスト編集部からは問い合わせした当日に返事が来た。そこには「編集部の意図としましては、主要な先進国においてFRBだけが利上げを検討できる中央銀行という意味で編集いたしました。その点、説明不足であった点は否めないと存じます」と書かれていた。やはり「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」という状況ではなさそうだ。
しかも南アフリカやメキシコはG20のメンバーでもあり、言ってみれば主要国だ。そこを抜いて「世界で唯一」とするのは、どう考えてもまずい。
「今の世界で利上げを検討できるのがFRBだけ」ではないとの前提に立てば、「FRBが『世界で唯一利上げを模索できる中央銀行』であることを標榜」してきたとの説明も誤りだと考えるべきだろう(FRBが唐鎌氏と同じ事実誤認をしている可能性もゼロではないが…)。
何となく「唐鎌氏=ダメな書き手」と思わせる話になってしまったが、記事自体は参考になる内容で、「FRBだけ」の問題がなければ平均を上回る出来だった。今後もエコノミストに寄稿してほしい書き手だ。
今回の記事から判断すると、十分な確認をせずに必要以上の断定をしてしまう傾向が唐鎌氏にはあるのだろう。だが、プロの書き手ではないのだから、その辺りは編集部でカバーしてあげてほしい。
※記事の評価はC(平均的)とする。「FRBだけ」の問題がなければB(優れている)だった。唐鎌大輔氏の書き手としての評価も暫定でCとする。なお、「シン・円高」という特集全体の評価は「週刊エコノミスト特集『シン・円高』のタイトルに異議あり」で述べる。
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