2016年8月25日木曜日

1面ワキに値しない 日経「コンビニ、欠品ゼロへ セブン」

朝刊1面のワキ(その面で2番手のニュース記事)を飾るには、あまりに苦しい内容だった。25日の日本経済新聞 朝刊1面に載った「コンビニ、欠品ゼロへ セブン、10年ぶり新システム 520億円投資」という記事は、企業面のトップに据えるのが限界と思える。それを強引に1面ワキに持ってきたために「コンビニ、欠品ゼロへ」という無理のある見出しが付いてしまった。これは整理部の責任というより、ニュース性の乏しい記事を1面に送り込んだ企業報道部と、それを認めてしまった編集局幹部の問題だろう。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

セブン―イレブン・ジャパンは全国約1万9000店のコンビニエンスストアと本部を結ぶ情報システムを10年ぶりに刷新する。投資額は過去最高の520億円。店舗に配る新型の発注端末に売り切れ間近の商品を従業員に知らせる機能を持たせる。欠品による販売機会の逸失を防ぎ、店舗の稼ぐ力を底上げする。

今秋までに店舗の発注端末やパソコンなど機器の更新を完了し、2017年度から順次、新システムの運用を始める。

新型の発注端末は飲料や菓子などの加工食品、雑貨について、各店の発注個数や販売個数、売れ行きから見た適正在庫などの情報をもとに、追加すべき商品を液晶画面に表示する。警告音でも注意し、欠品をゼロに近づけることをめざす

コンビニはスーパーに比べて各店の倉庫スペースが小さく、欠品が発生しやすい。同社は商品の販売状況を即時に把握する情報システムなどで流通各社に先行してきた。それでも加工食品や雑貨では売り切れへの注意を促す仕組みはなく、従業員が気付かないまま欠品になっていることも少なくない。

欠品で失った売上高や利益の推計は難しいが、各社の間では業績を押し下げる主要な要因の一つになっているとの見方が多い。また、前回の来店時に買えた商品がなくなっていることへの失望から、客離れが起きることへの危機感もある。

新型の端末では弁当や総菜についても、いつ売り切れになったかを従来より簡単な操作で確認できるようにする。システムの刷新により、約2900品目に上る店頭商品の大半で欠品状況の「見える化」が実現する。

流通業界では人手不足が一段と厳しくなっている。セブンイレブンは新システムの導入により、経験の少ない従業員でも欠品の確認ができるようにする。

17年夏からはクレジットカード決済端末を組み込んだ新型レジも導入。来店客の利便性を高める

セブンイレブンは1店舗の1日当たりの平均売上高(日販)が65万円を超え、競合するローソンやファミリーマートを10万円以上引き離す。新システムで販売機会の逸失を減らし、品ぞろえに対する満足度を高めることもできれば、さらに差が開く可能性がある。

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セブンイレブンに関して「コンビニ、欠品ゼロへ、10年ぶり新システム」という大きな見出しを1面に見つけたら、日経の読者はどう理解するだろうか。「欠品ゼロとは言わないまでも、限りなくゼロに近付けられるシステムを採用するのかな」と思うのは自然な反応だ。しかし、そう理解して本文を読むと失望は避けられない。記事には「欠品をゼロに近づけることをめざす」と書いてあるだけだ。欠品がどういう頻度で起きているのかも、新システムで欠品をどの程度減らせるのかも、記事は教えてくれない。

欠品をゼロに近づけることをめざす」のは、言ってみれば当たり前の話だ。見出しで「欠品ゼロへ」と打ち出すのであれば、例えば「従来は1店当たり月100回程度の欠品が起きていたが、新システムが稼働すれば月10回以下に抑えられる」ぐらいの情報は欲しい。

今回の記事では、13版と14版(最終版)を読み比べると、作り手の事情が何となく推測できる。

まず13版の見出しは「コンビニ、欠品ゼロ」ではなく「コンビニ、欠品ゼロ」だ。「ゼロに」とすると、「新システムの導入で欠品をゼロにできる」とのニュアンスが強く出過ぎると判断して、14版で微調整したのだろう。

さらに言えば、13版の「コンビニ、欠品ゼロに」はカラ見出し(本文の内容と合致しない見出し)になっている。14版で「警告音でも注意し、欠品をゼロに近づけることをめざす」となっている部分は、13版では「警告音でも従業員に注意を促す」と書いてあるだけだ。

つまり「欠品ゼロ」はまず見出しに表れ、それに合わせる形で本文に手を入れている。なぜそうなったのかは想像がつく。1面ワキに持ってくるには辛い内容の記事を前にして、整理部では「1面ワキにふさわしい見出し」を一生懸命に考えたのだろう。そして捻り出したのが「欠品ゼロに」ではないか。

しかし頑張り過ぎてカラ見出しになってしまった。とは言え、1面ワキに値する見出しを維持するためには「欠品ゼロ」を使いたい。そこで、本文に手を加えてもらいカラ見出しを解消した。そう考えると納得できる。

今回の記事を読む限り、新システムにニュース性は乏しい。「追加すべき商品を液晶画面に表示する。警告音でも注意」というのが、新システムの主な変更点だ。これを1面の記事にしようと思えるのは、ある意味で凄い。

そもそも欠品への注意を促すことが目新しいのかどうかも疑問だ。記事には「それでも加工食品や雑貨では売り切れへの注意を促す仕組みはなく」との記述がある。だとすると「加工食品や雑貨」以外では「売り切れへの注意を促す仕組み」が既にあるのではないか。対象品目を広げるだけならば、ニュース性はさらに低くなる。

ついでに言うと「17年夏からはクレジットカード決済端末を組み込んだ新型レジも導入。来店客の利便性を高める」という説明も引っかかった。セブンイレブンの店舗は今でもクレジットカードでの支払いができるはずだ。「クレジットカード決済端末を組み込んだ新型レジ」の導入は「来店客の利便性を高める」効果があるのだろうか。

今は「レジ」と「クレジットカード決済端末」が別々になっているのだろう。それを一体化すると、従業員は楽になるかもしれない。だが「来店客の利便性」が高まるかどうかは別問題だ。新型レジだとクレジットカード支払いの処理時間を短くできるといった「来店客の利便性」につながる話があるのならば、それを明示すべきだ。


※記事の評価はD(問題あり)。

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