震災後の熊本大神宮(熊本市) ※写真と本文は無関係です |
ただ、編集部の持つ批判精神や問題意識は高く評価したい。特集の中では「インタビュー生き証人 電通と私2 藤沢涼(元電通社員/Lamir社長)~記事もみ消し、キックバック要求の悲劇 電通には抜本的改革を期待したい」という記事が興味深かった。
「入社して数カ月後のことだが、会社でデスクワークに没頭し、先輩の方を見ずに返事をしたら、突然殴られ、頚椎を損傷した。先輩に蹴られてあばら骨を折られた同期もいる。本当に恐ろしい風土があった。今はなくなっていると信じたい」と藤沢氏は電通時代を振り返っている。元社員が顔と名前を出した上でこうした話を明らかにしているのは貴重だ。
前置きが長くなったが、今回の電通特集に出てくる「電通一強時代 基礎から学ぶ広告業界」(筆者はマッキャンエリクソン・シニアプランニングディレクターの松浦良高氏)という記事に関して、週刊エコノミスト編集部へ問い合わせをした。その内容と回答を併せて紹介したい。
【エコノミストへの問い合わせ】
8月23日号の電通特集に出てくる「電通一強時代 基礎から学ぶ広告業界」という記事についてお尋ねします。この中で筆者の松浦良高氏は「運用型広告」に関して「これは、アドテクノロジー(IT<情報技術>を生かした広告技術)広告枠や広告内容などを、自動的に変動させ広告の効果を高めるネットならではの出稿方式だ」と書いています。しかし、「アドテクノロジー広告枠や広告内容など」では意味が通じにくいと思えます(強引な説明は可能でしょうが…)。
例えば「アドテクノロジー(IT<情報技術>を生かした広告技術)を活用して広告枠や広告内容などを自動的に変動させ、広告の効果を高めるネットならではの出稿方式だ」とすれば、違和感はありません。記事には脱字などの問題はないのでしょうか。
さらに言うと、電通について「このように1社が寡占する状況は、海外ではあまり見られない」と述べた部分は、言葉の使い方としても状況説明としても誤りだと思えます。「寡占」とは、少数の供給者が市場を支配している状態を指します。ゆえに「1社が寡占」という状況はあり得ません。1社で市場を支配していれば「独占」です。
日本の広告市場に関しては、記事中の「図4 日本の広告会社ランキング(売上高上位10社)」を見ても分かるように、「数社で寡占」でもありません。多数のプレーヤーで市場を分け合っていると見るべきでしょう。
【エコノミストの回答】
この度は、弊紙「電通特集」について貴重なご意見をお寄せいただきありがとうございました。
ご質問の2点について回答させていただきます。
まず、1点目の「アドテクノロジー広告枠」ですが、意味が通じにくいところがございました。
この部分は、ご指摘のとおり、「アドテクノロジーを活用し」、または「アドテクノロジーを駆使し」とすべきでした。
2点目の「1社による寡占」ですが、この部分は、電通をはじめとする大手数社による寡占、とすべきでした。
意図としては、電通、博報堂、ADKの3社で市場シェアの4割を占めるという寡占状態は世界でも珍しく、また、その中でも電通1社が突出している、ということを説明したかったのですが、ご指摘のとおり、「1社で寡占」という説明は適切でなく、説明も不足しておりました。
文章をチェックすべき編集部に至らない点があり、ご迷惑をおかけいたしました。
今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします。
----------------------------------------
3社で市場シェアの4割を占め、残り6割を多くの企業で分け合っているのであれば、その市場は「大手3社による寡占」ではないと思う。だが、それはいい。きちんと回答したことを高く評価したい。週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、日経ビジネスなどのライバル誌は、読者に問題点を指摘されても無視で済ませている。それに比べれば雲泥の差だ。
ちなみに今回の電通特集の中の「経営分析~変革期迎える電通 市場開拓で新たな競合も」という記事ではJPモルガン証券メディアセクターアナリストの田中優美氏が以下のように書いている。
「日本の広告業界では、電通及び博報堂DYホールディングスが4割強のシェアを有し、テレビ広告のみでは両社で約6割を占め絶大な影響力を誇る」
広告市場のシェアに関してエコノミストの回答では「電通、博報堂、ADKの3社で市場シェアの4割」だったので、記事の説明とはやや食い違う。どちらが正しいのかは分からないが…。
※特集全体の評価はC(平均的)。問い合わせで指摘した問題はあったが、特集における果敢な挑戦を考慮してCとした。暫定でB(優れている)としていた大堀達也記者の評価は暫定でCへ引き下げる。後藤逸郎、池田正史、荒木宏香の各記者は暫定でCとする。
0 件のコメント:
コメントを投稿