柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です |
「Part1 若返り狂想曲 欲望が生んだ美の巨人アラガン」でまず取り上げたのが「美容整形」だ。「『不老』を求める欲望の際限のない拡大は、既に米国の美容整形の世界で現実に起きつつある」と訴えるこの記事では、以下のように現状を描写している。
【日経ビジネスの記事】
米大手銀行でITマネジャーを務めるケネス・ホールデン氏。組織で働く至って普通のビジネスパーソンだが、実は彼はこれまでに4回整形している。
最初にメスを入れたのは大きくて気に入らなかった耳たぶ。その後、顔の昔の傷を取り除き、頬骨を削り、顎をシャープにした。次に狙うのはまぶたの下のたるみだ。養育費の支払いで金欠状態だが、これまでに約6万ドル(約600万円)を注ぎ込み、さらにカネがたまり次第、たるみを取ると決めた。
「プレゼンの中身も重要だが、稼ぎたければ外見が良くなきゃダメだ」
彼に限らず、ビジネスや就職のために美容整形に踏み切る男性は増えている。政治家や企業の幹部、テレビキャスターなど露出の多い職業は特にそうだ。従来は女性のものというイメージだった美容整形。だが、銀河鉄道999の世界のように、「若さ」を人工的に取り戻すことは一般的になりつつある。
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特集の最初を飾る事例が「ケネス・ホールデン氏」の「美容整形」だ。そもそもこれは「若返り」なのか。「耳たぶ」にメスを入れ、「その後、顔の昔の傷を取り除き、頬骨を削り、顎をシャープにした」のは若返りと関係がなさそう。「まぶたの下のたるみ」を取るのも、若返りかどうか微妙だ。
ホールデン氏の年齢も不明だし、同氏自身は「稼ぎたければ外見が良くなきゃダメだ」と見た目へのこだわりは見せているが、若返りを目指していると判断できる材料はない。
記事には「(美容整形)クリニックで働くダニエル・モッローネさんは豊胸、太ももの脂肪吸引、貧弱だった顎の増強などに3万ドルをつぎ込んだ。『パパは半狂乱だったわ。俺の娘の顔じゃないって(笑)」という事例も出てくる。これも若返りとの関連は乏しい。
しかも、記事で言及している「しわ取り」のような美容整形術は広く知られている。「若さはここまで買える」との見出しに釣られて読んだ人を満足させる内容とは思えない。
Part1では「アイルランドの製薬メーカー、アラガン」(※「製薬メーカー」は重複表現なので避けた方が良い。「医薬品メーカー」「製薬会社」がお薦め)の取り組みも紹介している。だが、「目尻などに注射をすれば、筋肉の動きが抑制されてしわが目立たなくなる」効果がある「ボトックス」などを手掛けている程度で、若返りの画期的な新薬は見当たらないようだ。「ボトックス」も持続期間は「3~6カ月前後」。「若さはここまで買える」というより「若さはなかなか買えない」の方がしっくり来る。
「Part2 日本の男性も若さに執着 サプリも医療も抗老化が成長市場」でも、「ここまで老化を食い止めるサプリが出ているのか」と思わせる商品は見当たらない。以下の説明を読んで、「若さはここまで買える」と希望が持てるだろうか。
【日経ビジネスの記事】
特に活況を呈しているのが、簡単に摂取できるサプリメント市場だ。ファンケルは昨年、抗酸化物質などで目のピント機能を調整する効果を発揮するサプリ「えんきん」を、機能性表示食品としてリニューアル。その前の年と比べて売上高は4倍以上に拡大した。
肌の衰えなどに対処する化粧品ブランド「アスタリフト」が人気の富士フイルムでは、抗酸化と糖吸収抑制を2本柱にサプリ事業を「現在の数倍規模にする計画がある」(同社の医薬品・ヘルスケア研究所の永田幸三・統括マネジャー)。抗酸化技術を生かし、脳の記憶力改善や眼精疲労軽減、睡眠改善などに機能性表示食品を拡大する方針だ。
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やや乱暴に言えば「サプリで若さを買おうなんて、少なくとも現時点では考えるな」ということだろう。「Part3 現代の錬金術師だち IT長者も巨額資金、『不老薬』は近い?」では、将来の画期的な「不老薬」の可能性を示してはいる。だが、「若さはなかなか買えない」の方がしっくり来る状況は変わらない。
「若さはここまで買える」ではなく、「若さを買える時代がすぐそこまで」ぐらいの見出しにして将来に焦点を当てれば、今回の特集はそこそこ説得力を持ったかもしれない。だが、「既に大きな進歩がある」との前提で走ってしまったので、苦しい展開になっている。
※特集の評価はD(問題あり)。ニューヨーク支局の篠原匡記者への評価はDを据え置く。暫定でDとしていた日野なおみ記者と大竹剛記者への評価はDで確定とする。篠原記者に関しては「日経ビジネス篠原匡記者の市場関連記事に要注意」も参照してほしい。
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