2016年6月8日水曜日

「SMAP騒動」もヒット商品? 「日経MJヒット商品番付」

「今年上半期のヒット商品の横綱は?」との問いに対する答えが「マイナス金利特需」と「安値ミクス(消費者・企業の低価格シフト)」だったら「なるほど」と思えるだろうか。8日の日本経済新聞朝刊1面には「2016年上期(1~6月)の日経MJヒット商品番付」が出ていて、上記の2つを「横綱」に選んでいる。率直に言って、かなり苦しい。まず、この番付はもはや「ヒット商品番付」とは言えなくなりつつある。例えば、前頭には「SMAP騒動」も入っている。これを「ヒット商品」と捉える人はまれだろう。
原鶴温泉 ビューホテル平成(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係

番付の対象は基本的に商品・サービスに限定すべきだ。はみ出すにしても、今回の番付で言えば「藤田菜七子JRAの新人女性騎士)」ぐらいにしてほしい。そうしないと、番付が「旬なヒット商品の一覧」としての役割を果たせなくなる。原点に戻って考え直すべきだ。

今回の横綱「安値ミクス」「マイナス金利特需」に関しては「横綱」と言えるほどの勢いもない。8日の日経MJ1面「安値ミクス 価値つくる」という記事の一部を見てみよう。

【日経MJの記事】

東の横綱は「安値ミクス」。アベノミクスで盛り上がった「ちょい高消費」はどこへやら、消費者が再び安値を求める様子を命名した。ユニクロの値上げはしくじり、しまむらやディスカウントストアなど安さが強みの店の客足が伸び、外食は割安メニューが広がる。

吉野屋ホールディングスは4月、豚丼を4年ぶりに復活させた。牛丼より50円安い値段が人気を呼び、2カ月で年間計画の50%にあたる1000万食が売れた。バーガーキング・ジャパン(東京・渋谷)が5月に発売した490円のセットメニューも、想定の5割増しの出足だ

4月には電力小売りが自由化。新電力への契約切り替えは5月末時点でまだ100万件(全体の1.7%)だが、各社がサービスを競い「家計の固定費を減らせるかも」との期待が膨らむ

----------------------------------------

電力小売りの自由化については日経自身が4日の記事で「大手電力からの契約切り替えは103万件強と全契約の1.7%にとどまり、出足は鈍い」と書いている。MJの筆者もその辺りの事情は分かっているようで、今後に「期待」しているだけだ。これでは「安値ミクス横綱」の根拠にはなり得ない。

となると残りは「豚丼」と「バーガーキング490円のセットメニュー)」ぐらいしか「ヒット商品」の具体例がなく、かなり寂しい。「豚丼」で「2カ月で年間計画の50%にあたる1000万食が売れた」と言われても「凄い」と驚くほどではない。バーガーキングに至っては「5月に発売」したばかりで「想定の5割増しの出足」。「490円」がなぜ「割安」なのかもわからない。結局、「横綱」に位置付けるほどの「ヒット」がどこにもない。

西の横綱の「マイナス金利特需」も正直言って辛い。MJでは以下のように書いている。

【日経MJの記事】

西の横綱は「マイナス金利特需」。未体験の金融政策の中にも、消費者は「お得」を見つけた。住宅ローン金利が下がり、主要8銀行の2~4月の新規申し込みは約12万7000件と前年同期比15%増。借り換えは約7万3000件と2.6倍だ

----------------------------------------

マイナス金利で借り換えは活発になっているが、新規の融資には目立った効果がないと言われている。実際、日経も5月30日の「1~3月住宅ローン3.5%減 マイナス金利効果見えず?」という記事で、それを認めるような解説をしている。

【日経の記事】

日銀が四半期に一度公表する統計を見る限り、住宅市場の刺激効果は乏しい。1~3月の住宅ローンの新規貸出額は4兆1853億円と、前年より1500億円強少なかった。減少は2四半期連続だ。3月末の住宅ローン残高も約118兆円で前年同月比1.9%増えたが、伸び率は6年ぶりの低水準だった。

一般的に、住宅の購入者は銀行で住宅ローンを申し込んでから実際に融資を受けるまで1カ月以上かかることが多い。三菱東京UFJ銀など主要8行に住宅ローンの申し込み状況を聞いたところ、マイナス金利発表後の2~4月(速報)の新規申込件数は合計で前年同期比15%増えた。統計上は新規貸出額が増えていないが、時間差を伴って増えてくる可能性もある。

一方、マイナス金利が住宅需要を底上げする効果について、銀行側から懐疑的な声が出ている点も見逃せない。みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長は、「借り換え需要は非常に大きいが、新規は増えていない」と話す。実際、2~4月の新規申込件数をみると、みずほ銀行やりそな銀行、イオン銀行では前年を下回っている。

----------------------------------------

MJの記事に間違いは見当たらない。ただ、「横綱」に見せるために都合のいい数字だけを選んで紹介した面は否めない。「1~3月の住宅ローンの新規貸出額」はマイナスだ。新規の住宅ローンに関して「特需」と言えるほどの盛り上がりはない。「借り換え」を「ヒット商品」と捉えるのも無理がある。

MJの記事には「家庭用金庫」や「百貨店の『友の会』」の話も出てくるが、「特需」の中心は「住宅ローン」のはずだ。そう考えると、やはり「マイナス金利特需」に「横綱」を張る資格はない。

大相撲では「横綱」がいなくなる場合もある。大きなヒット商品がない時は、「横綱」を空位にしてもいいのではないか。その方が番付に対する信頼度は高まると思える。


※MJ1面の記事の評価はC(平均的)。

0 件のコメント:

コメントを投稿