2016年4月6日水曜日

日経1面「市場の力学~投資の新潮流」に抱いた疑問(2)

5日の日本経済新聞朝刊1面に出ていた「市場の力学~投資の新潮流(2)『熟練トレーダー』AI参上 相手は機械、戻らぬ時代」という記事について引き続き見ていく。今回の記事で目立ったのは、大したことがなさそうな話を「新潮流」として取り上げている点だ。まず、冒頭の事例が辛い。

唐津城(佐賀県唐津市) ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

熟練トレーダーの相場観をコンピューターで再現できないか。野村証券はそんな発想で開発してきた新たな株式売買システムを、5月にも機関投資家向けに提供する。

膨大な価格データ、取引データをコンピューターに蓄積。それをもとに「現在の市場は2週間前のあの瞬間と似ている」などと判断し、数分後の株価を予想する

予想は結果的に外れるかもしれない。だが今後、新システムは人工知能(AI)を駆使し、経験を積むごとに自ら学習して予測能力を高めていく。「本格研究を始めて約2年。社内実験では成果を上げている」と、柏原悟志電子取引セールス課長は手応えを示す。

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そもそも、AIを使った「新システム」が本当に優れたものならば、他社に提供せず野村証券がグループ内で活用した方が合理的だ。システム活用による利益を独占的に得られる。そうしないのは、そもそも大した能力がないからではないのか。「社内実験では成果を上げている」とのコメントがあるものの、具体的なデータが記事に出てこないのは、誇れるほどの戦績がないからではないか。

膨大な価格データ、取引データをコンピューターに蓄積。それをもとに『現在の市場は2週間前のあの瞬間と似ている』などと判断し、数分後の株価を予想する」ということは、言ってみればチャート分析による売買だ。チャート分析の有効性には否定的な見方が多いので、いくらAIを使って学習させても厳しそうな気はする。

2番目の事例はさらに苦しい。

【日経の記事】

米運用会社のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは、AIを使い年100万本にのぼるアナリストリポートを解析、株価材料を探るシステムをつくった。

リポートにある単語のなかに「業績悪化」「収益低迷」など否定的な言葉が多いと投資判断を下方修正する。「人間が気づかない情報をコンピューターに発見させて投資に生かす」と内山雅浩計量運用部長は話す

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業績悪化」「収益低迷」が「否定的な言葉」なのは人間でも分かる。悲観的な業績見通しのレポートを見て投資判断を引き下げるのも人間にとって難しくない。記事の説明では「人間が気づかない情報」が何なのか分かりづらい。

年100万本にのぼるアナリストリポート」の中に「業績悪化」「収益低迷」という言葉が何回出てくるかも、リポートをデータ化して検索できるようにしておけば「人間」でも気付ける。結局、話が漠然とし過ぎていて「このシステムは凄そう」とは感じられない。

そもそもアナリストのリポートは強気予想が多くなるバイアスがあると言われる。アナリストリポートを詳細に分析すれば高いパフォーマンスを得られる確率が高まるという発想自体が怪しい気もする。


※記事の評価はD(問題あり)。

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