太宰府天満宮(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
セブン&アイ・ホールディングスが中核子会社セブン―イレブン・ジャパンの社長人事で揺れている。7日に開く取締役会に井阪隆一社長兼最高執行責任者(COO、58)の交代を提案する。後任の社長には古屋一樹副社長(66)を昇格させる方針だ。グループの好業績を支えるセブンイレブン社長が退場を求められたのはなぜか。
中略)指名報酬委員会が待ったをかけた形の人事案が取締役会に諮られる。背景を探れば、井阪氏を社長に指名した鈴木会長が井阪氏に抱く不満が浮かび上がる。
09年に鈴木会長が井阪氏をセブンイレブンの社長に指名した当時は「初の生え抜きに期待していた。グループの後継者としても検討していたのでは」(セブン&アイ関係者)とも言われていた。
こんな期待はここ数年で失望に変わっていた。別の社内関係者は「鈴木会長は井阪氏の組織を率いていくリーダーシップに疑問を抱いていた」と話す。鈴木会長自身も「自分が指示したことをやっているだけ。井阪氏がつくり出した新しいものはない」と周囲に漏らすようになった。
3月30日。東京ビッグサイト(東京・江東)で開かれたセブンイレブンの加盟店向け新商品展示会ではこんな一幕があった。井阪氏らを従え、会場を回る鈴木会長は展示商品に片っ端から注文をつけた。最後には「今のセブンイレブンはマンネリ化している」と声を荒らげたという。
鈴木会長の意向が強く反映された井阪氏の交代案だが、これほどの騒動になったのは「物言う株主」として知られる米投資ファンド、サード・ポイントの存在がある。
サード・ポイントは15年10月にセブン&アイの株式を取得。セブン&アイに対し、業績不振が続く傘下のスーパー、イトーヨーカ堂のグループからの切り離しなどを要求してきた。サード・ポイントへの回答として、セブン&アイは3月8日、傘下の百貨店、そごう・西武の2店閉鎖とヨーカ堂の不採算店20店の閉鎖を柱とする構造改革を発表した。
この回答に満足できなかったサード・ポイントはさらに揺さぶりをかける。3月27日、セブン&アイの役員にサード・ポイントから1通の書簡が届いた。改めてヨーカ堂の事業縮小などを求めた書簡のなかでサード・ポイントはグループ人事や鈴木会長の後継者問題にも言及した。
「井阪氏の社長職を解く噂を耳にしたが降格は理解できない」
「鈴木氏の次男をグループのトップに就ける噂もあるが重大な疑問がある」
セブン&アイに送った書簡の内容をサード・ポイントが報道機関に公表したことでくすぶっていたグループ人事や後継問題が一気に表面化。セブン&アイの社内は混乱していった。
7日の取締役会で井阪氏の交代案が可決されるかは流動的だ。社外取締役を中心に複数の取締役が反対するとみられる。交代案が否決されれば、経営陣の対立は一気に先鋭化する恐れがある。一方、可決されたとしてもセブンイレブンを核にセブン&アイを日本を代表する一大流通グループに育てた鈴木会長の求心力低下は避けられない。どちらの結果になっても4月7日はセブン&アイの大きな転換点になる。
----------------------------------------
この記事には、今回の問題を考える上での重要な要素が抜けている。それは「サード・ポイントが鈴木氏の後継者候補として井阪氏を高く評価している」ということだ。日経は「鈴木氏が井阪氏の手腕に不満を持っていた」という点を強調している。そういう面がないとは言わない。しかし、サード・ポイントから見れば「後継者候補としてふさわしい井阪氏を外して鈴木氏が次男への世襲を狙っているのではないか」との懸念があるはずだ。
この点は踏まえて記事を書かないと、問題の本質には迫れない。「サード・ポイントの懸念は根拠に乏しい」と日経が判断しているのならば、そう書けばいい。社長人事と世襲懸念を絡めず、あくまで井阪氏の経営手腕の問題として扱おうとする姿勢は「逃げ」だと映る。
「鈴木氏の次男をグループのトップに就ける噂もあるが重大な疑問がある」というサード・ポイントの訴えを日経も記事に載せてはいる。しかし、このコメントが浮いていて、井阪氏の人事とどう関係するのか記事からは伝わってこない。
参考までに毎日新聞の「セブン−イレブン 井阪社長退任を提案へ 7日に取締役会」という記事の一部を見てみよう。
【毎日の記事】
大株主で「物言う株主」として知られる米ヘッジファンドのサード・ポイントは3月末、HDに書面で「(人事案は)鈴木会長が次男の康弘氏(51)をやがてはHDトップに就ける道筋を開くため」という趣旨の指摘をし、「血縁関係を理由に幹部を昇進させることは正当化されるものではない」と批判した。康弘氏はHD取締役で子会社の社長も務める。これに対し、HDは「貴重なご意見として受け止めているがコメントは控えたい」(広報)との立場だ。
----------------------------------------
これならば、「井阪氏外しは世襲への布石ではないか」とのサード・ポイントの懸念が読者にもしっかり伝わる。他のメディアの多くもこの点を外していない。しかし、日経は「井阪氏の人事」と「世襲」を切り離して伝えている。
日経としては「可決されたとしてもセブンイレブンを核にセブン&アイを日本を代表する一大流通グループに育てた鈴木会長の求心力低下は避けられない」と書くだけでも相当な勇気が必要だったはずだ。いずれ発表されるニュースを発表前に書くことに大きな労力をかけている日経にとって、セブン&アイの最高実力者のご機嫌を損なうような記事を書く選択肢はほぼない。
しかし、ここまで鈴木氏の「老害」が顕著になってくると、今までの日経のやり方では記事を書く上でどんどん窮屈になっていく。鈴木氏を怒らせるリスクを負って同氏の問題点をきちんと指摘していくのか。それとも奥歯にものが挟まったような表現でお茶を濁し続けるのか。
楽しみな展開になってきた。
※記事の評価はC(平均的)。
いつもタイムリーな分析、脱帽です。
返信削除今回の記事、なんか遠まわしっぽくて腰がひけてるんだなと感じていました。
肝心の 鈴木氏が現社長を降ろしたい理由がアバウトすぎるなと思っていましたが結局は
世襲、同族
絡みということだったんですね。そこ突いてもらわないと
鈴木井坂ラインがみえてこないですからね。
日経はT記者による鈴木氏関連の著作もありますし、担当なのでしょうから
その信頼関係も維持したいところと思いました。