田安門の桜(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です |
しかし残念ながら、「女性活躍」というテーマに前向きでなく、なぜ女性登用や意識改革が必要なのかと思っている人は少なくない。そのときに、説得力を持つのが数字で客観的に分析することだ。米国NPO法人「カタリスト」の研究成果によると、フォーチュン500の企業のうち、女性役員比率が高い企業は、株主資本利益率(ROE)が高い。日本でも、当社の分析では、女性部長比率が高い企業のROEは高いという結果が出ている。
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「ほら。女性を活用すると企業のROEも上がるんですよ。説得力があるでしょう。だから積極的に女性を登用しましょうよ」と言いたいのだろう。しかし、上記の説明は説得力に欠ける。相関関係があるからと言って、因果関係があるとは限らない。また、因果関係がある場合でも、「女性役員比率を高めるとROEが向上する」のではなく、「ROEの高い企業は女性役員比率を引き上げる」という関係になっている可能性もある。そこを見極めないと、何とも言えない。
さらに言えば、「ROE」と絡めるのも問題が残る。ROEを高めるためには「増配などで株主資本を減らす」「負債を増やしてレバレッジを効かせる」といった方策がある。例えば「女性役員が増えると、企業は負債を積極的に使って企業規模の拡大を図ろうとする」という傾向がある場合、単純に良いこととは言えない。
この問題に関して、PRESIDENTの2013年12月30日号に慶応大学の鶴光太郎教授が参考となりそうな記事を書いていたので一部を紹介しよう。
【PRESIDENTの記事】
政府は「社会のあらゆる分野において2020年までに指導的地位に女性が占める割合が30%になるよう期待する」との目標を掲げたほか、安倍首相は上場企業に女性役員を少なくとも1人置くべきだと主張しました。
こうした主張の根拠には「女性役員の多い企業はパフォーマンスがよい」という複数の研究結果が置かれています。しかし、それらの研究の因果関係がよくわからないという問題点があることは、あまり指摘されていません。つまり、パフォーマンスがよいから女性役員比率を高める余裕があるのかもしれないし、女性の役員の多さ以外の要因がパフォーマンスと女性役員の多さに影響を与えているのかもしれない、というわけです。
これは経済学で内生性といわれる、分析を行う際の厄介な問題です。ところが現在の議論はそうした問題点を考慮せず、数値目標だけが先行している感があります。
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鶴教授はこの記事の中でノルウェーの女性役員割当制にも触れている。
【PRESIDENTの記事】
女性役員比率を高める政策を考えるうえで、非常に興味深い社会実験がノルウェーで行われました。同国では2003年に上場企業と一定の要件を満たした非上場企業を対象に割当制を導入し、当初6%だった女性役員比率を08年に40%まで引き上げたのです。
その結果を分析した米南カリフォルニア大学のケネス・アハーン助教と米ミシガン大学のエイミー・ディットマー准教授の研究によると、割当制の内容が公表されたとき、対象企業の株価は大幅に下落し、その後数年間で企業価値の指標である「トービンのq(時価総額÷資本再取得価額)」は10%の女性役員比率増加で12.4%低下しました。
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「女性を活用すれば何もかもいい方向に働く」というわけではなさそうだ。松井氏が本当に「数字で客観的に分析すること」ができていれば、記事のような書き方にはならなかったはずだ。女性の活用が企業価値の向上にとってプラスかどうかは「微妙」だと思える。
しかし松井氏のように「ウーマノミクスは国のため、社会のため」と思い込んでしまうと、どうしてもデータの取捨選択にバイアスが生じる。そこが難しいところだ。
※記事の評価はD(問題あり)。キャシー・松井氏への評価も暫定でDとする。
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