2016年4月11日月曜日

ミズノへの分析の甘さ目立つ東洋経済 常盤有未記者

週刊東洋経済4月16日号で常盤有未記者が書いていた「核心リポート~国内と野球に執着 時代遅れの名門ミズノ」という記事は、分析の甘さが目立った。批判的に記事を書くのは悪くないのだが、この出来ではミズノの関係者に同情するしかない。何が問題なのか列挙していこう。

◎ランニングへの依存ならOK?
キャナルシティ博多(福岡市博多区) 
       ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

ミズノが低迷している要因は2つある。まず、野球やゴルフなど、特定の競技用品に依存しきったことだ。少子高齢化の影響で国内のスポーツ人口は縮小傾向にある。日本生産性本部によれば、野球の参加者は2005年に1250万人いたが、この10年で680万人まで減少。人気の低迷が続くゴルフも、場内でプレーする人口は、この10年間で3分の2となった。

国内の野球・ゴルフ用品市場は横ばいだが、これ以上の伸びは期待できない。競合は早々に手を打った。ミズノと同じく、競技用品や学校向け商材が主力だったアシックスは、01年にゴルフ事業から撤退し、経営資源の大半をランニングに集中させる。広告塔となる選手を設けず、世界各地のマラソン大会のスポンサーとなり、市民ランナーにブランドを訴求した。

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「(ミズノが)野球やゴルフなど、特定の競技用品に依存しきったこと」をマイナスに捉える一方で、「経営資源の大半をランニングに集中させる」アシックスは評価しているようだ。特定競技への依存が良くないのならば、ランニングへの依存も避けるべきだろう。ミズノの場合は「野球」と「ゴルフ」の2つに依存しているのだから、「ランニング」のみのアシックスよりもリスクヘッジができているとも言える。「野球やゴルフに依存するのは好ましくないが、ランニングならば問題ない」と常盤記者が考えているのならば、その理由を記事中で明示すべきだ。


◎有名選手以外との契約はタブー?

【東洋経済の記事】

一方でミズノは、日本人のトッププロから絶大な支持を集めるあまり、アシックスのように裾野の広い一般選手向けの市場をとらえきれなかった。「今までは有名選手やチームとの契約を重視しており、それ以外はタブー視された感覚があった」(同社幹部)。

そのことは結果的に、海外展開の遅れも招いた。ミズノの海外売上高比率は37%にすぎない。アシックスの76%、デサントの53%に比べても、見劣りするのは歴然だ。

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上記のくだりを読むと「ミズノは有名選手としか契約しない」との印象を抱く。しかし、ミズノの契約選手をゴルフで見ると、高山 準平、芳賀 洋平、吉田 泰典、土屋 陽平、伊藤 慎吾といった名前が並んでいる。常盤記者はこうした契約プロの名前を見て「有名選手ばかりだな」と思うだろうか。ゴルフに興味がある自分でさえも聞いたことのない選手だ。少なくともゴルフに関しては「有名選手でなくても当たり前のように契約してきた」と考える方が自然だ。

一般選手向けの市場をとらえきれなかった」との説明も腑に落ちない。野球もゴルフもプロ向けの市場は非常に小さいはずだ。有名選手と契約するのは、その選手に自社製品を使ってもらって、一般の人にアピールするためだ。ミズノは一般選手向け市場を捉え切れなかったのかもしれないが、「トッププロから絶大な支持を集める」ことは、一般選手向け市場の開拓を妨げるわけではない。例えば、ゴルフで今の日本を代表する松山英樹や石川遼がミズノのクラブを使ってくれるようになれば、一般選手向け市場でのミズノへの関心は確実に高まるはずだ。

海外売上高比率の37%もライバルに比べて低いとはいえ、そこそこの水準だ。今回の記事の見出しは「国内と野球に執着 時代遅れの名門ミズノ」となっているが、4割近くを海外で売っている企業を「国内に執着」と言い切ってよいのだろうか。

付け加えると、上記の「同社幹部」は形式的に考えれば「アシックス幹部」になってしまう。ここは「同社」を使わずに「ミズノ幹部」とすべきだ。

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◎なぜ生産地が限られる?

【東洋経済の記事】

ある業界関係者は「野球用品のマーケットは米国と日本に限られる。生産地の選択肢が狭く、原価低減を進めにくい」と収益改善の足かせになっていることを指摘する。

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マーケットが日米に限られるとしても、なぜ「生産地の選択肢が狭く」なるのか謎だ。生産地が中国やミャンマーでも、そこから日米に持っていけば問題なさそうに思える。それではダメな理由があるならば、記事中で説明すべきだ。

記事の最後で常盤記者は「老舗企業は正念場を迎えている」と締めている。しかし、記事からはミズノが「正念場を迎えている」とは感じなかった。「売り上げの減少に歯止めがかからない」とか「赤字が何年も続いている」という話ならば分かるが、そういう記述は見当たらない。ライバル企業に売上高や時価総額で劣っているだけで「正念場」と言うのは説得力に欠ける。


※記事の評価はD(問題あり)。暫定でC(平均的)としていた常盤有未記者への評価は暫定Dに引き下げる。常盤記者に関しては「ヨイショが過ぎる東洋経済『アシックス 知られざる改革』」「『孤高のココイチ』書いた東洋経済 常盤有未記者に助言」も参照してほしい。

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