2016年2月18日木曜日

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(3)

16日の日本経済新聞朝刊の投資情報面に載った「一目均衡~パッシブ運用者の責任」という記事の問題点についてもう少し続ける。以下は記事の終盤の4段落だ。筆者の北沢千秋編集委員は「運用会社は今、株価下落を通じて厳しい選別の目にさらされているのを自覚すべきだ」という結論を導き出している。これに説得力を感じるだろうか。

須佐能袁神社(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

パッシブファンドが企業との対話や議決権行使に本腰を入れれば、企業への圧力は格段と強まる。リターンの悪化に歯止めをかけるためにも、もはや「対話などの手間はアクティブ運用者任せ」というただ乗りに甘んじるべきではない。

一方、年金基金など運用委託者はパッシブ運用者が責任を果たしているか、監視を強化すべきだ。さらに、運用の委託手数料を値切るのももうやめて、リターン向上のための手間やコストには相応の対価を払うようにした方がいい。

それが非現実的なら、企業との対話に熱心なパッシブファンドなどに資金を傾斜配分するという手もある。日本の運用業界が未成熟な責任の一端は、バイイングパワーを背景に運用手数料を買いたたいてきた資金の出し手にもある。

野村総合研究所の堀江貞之・上席研究員は「暴落相場は運用会社の運用能力・姿勢を見極める絶好の機会」と指摘する。運用会社は今、株価下落を通じて厳しい選別の目にさらされているのを自覚すべきだ

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パッシブファンドは企業との対話や議決権行使に本腰を入れるべきだ」という北沢編集委員の主張に個人的には賛成しないが、取りあえず受け入れてみよう。その場合、「運用会社は今、株価下落を通じて厳しい選別の目にさらされている」との結論ではうまく着地しない。北沢編集委員の説明を素直に信じれば、パッシブファンドも企業に圧力をかけるべきであり、運用会社はそれができるかどうかで厳しい選別を受けているのだろう。

だとしたら「パッシブ運用者が責任を果たしているか、監視を強化すべきだ」と訴えていることと辻褄が合いにくい。パッシブかアクティブかを問わず既に「株価下落を通じて厳しい選別の目にさらされている」のだから、成り行きに任せればいいのではないか。

北沢編集委員の主張に沿った結論にするならば、最終段落は以下のようにしてはどうだろう。

【改善例】

野村総合研究所の堀江貞之・上席研究員は「暴落相場は運用会社の運用能力・姿勢を見極める絶好の機会」と指摘する。その対象に自分たちも含まれる時代が訪れつつあることを、パッシブファンドの運用者は自覚すべきだ

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せっかくなので「パッシブファンドの運用担当者がコストをかけて企業に圧力をかけるべきかどうか」を少し考えてみよう。前提として「圧力をかけると、企業業績の改善を通じて株価上昇率を高められる(あるいは下落率を縮小できる)」「圧力をかけるコストがかかるので、委託手数料はその分高くなる」と仮定する。

この場合、「委託手数料が多少高くても、その分は株価上昇率の上乗せでカバーできるから、圧力をかけるファンドを選ぶ」という行動は合理的だろうか。日経平均型のファンドで言えば、圧力をかけた分だけ日経平均の上昇率が高まる恩恵は日経平均型ファンドの全てに及ぶ。だとしたら、圧力をかけない(つまり委託手数料の安い)ファンドを選ぶ方が合理的だ。

委託する側が合理的に判断し、パッシブファンドが「厳しい選別の目にさらされている」とすると、委託手数料を高くして投資企業に圧力をかけるパッシブファンドは淘汰されていくはずだ。そもそも、圧力をかけることで追加的な株価上昇をもたらす能力があるのならば、パッシブファンドなんか運用しないで「圧力をかけた銘柄だけで構成するアクティブファンド」を立ち上げてほしい。その能力が本物ならばだが…。


※記事の評価はD(問題あり)。「保有株数を考えれば、企業への影響力はアクティブファンドより大きい」という記事中の説明が正しいのかとの問い合わせに対し、日経からの回答は届いていない。ただ、この件では「記事の説明は明らかに問題あり」とは断定する材料が少し足りないので、北沢千秋編集委員への評価はDで据え置く。

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