本佛寺(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
【日経ビジネスの記事】
(1)鉄鉱石の埋蔵量は世界2位で、沖合には深海油田が豊富に眠る。
(2)ケニアのナイロビで日本食チェーンを展開するトリドールも、昨年2店舗を開いたが、「夏以降、売り上げが鈍化してきた」と池光正弘ゼネラルマネージャーは警戒する。
(3)輸入品価格の高騰はガーナの通貨、セディが下落した影響だ。対ドルレートは2013年に比べて105%下落し、価値は半分になった。
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(1)「油田」とは「原油が採れる地域」を指すので、「眠る」との相性が良くない。例えば「鉄鉱石の埋蔵量は世界2位で、沖合には豊富な埋蔵量を誇る深海油田がある」とすれば違和感はない。
(2)「売り上げが鈍化」だと、売り上げの伸びが鈍っているのか、売り上げが落ち込んでいるのか分かりにくい。迷わずに済む書き方を選ぶべきだ。
(3)「105%下落」だと価値は「半分」ではなくマイナスではないかと感じる。円相場で言えば、1ドル100円が200円に下落するような事態を「下落率100%」と表現しているのだろう。しかし、この場合どちらかと言えば「ドルの上昇率が100%」だと思える。今回のケースに関しては「105%下落」を省くことを勧める。セディの正確な下落率を読者に知らせる必要も感じられないので「対ドルで見ると2013年に比べて価値は約半分になった」ぐらいで十分だ。
続いて、今回の特集での納得できない説明を見ていこう。
◎「中間層が崩壊」?
【日経ビジネスの記事】
米ピュー・リサーチ・センターによれば、家計収入から見た米国の中間層の割合は1970年の62%から43%に大きく減少した。成人人口に占める比率も71年の61%から50%に落ちており、米国の強みだった分厚い中間層が崩壊しつつある。
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中間層の比率が43%とか50%と聞いて「中間層が崩壊しつつある」と感じるだろうか。仮に「10%未満」を「崩壊」とすると、それには程遠い。「40%未満」で崩壊ならば、崩壊しつつあるかもしれないが、常識的な理解とかけ離れ過ぎている。
ピュー・リサーチ・センターでは、家計所得の中央値に対し3分の2から2倍までの世帯を「中間層」と定義しているようだ。この定義でいけば、米国で中間層が「崩壊」するリスクはほぼゼロだ。中央値の周辺が極端に薄い二極分化が起きない限り、中間層がそこそこの比率を占める状況は続くだろう。
◎他国通貨の方が安くなる人民元安?
【日経ビジネスの記事】
足元で進む人民元安は中国の輸出企業にとっては競争力の強化につながるが、そのほかの国の企業にとっては中国製品との競争が激しくなることを意味する。しかも「人民元安になっても以前ほど輸出が伸びない。人民元が下がると他国の通貨はそれ以上下落し、人民元安の効果がなくなることもあり得る」(中国の経済評論家、葉壇氏)。
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「人民元安の効果がなくなるほどの他国通貨の下落」があり得るらしいが、この説明はかなり意味不明だ。あらゆる通貨との関係を総合的に見て人民元安が進んでいるのであれば、人民元安の効果をなくすほど他国の通貨が値下がりすることはあり得ない。全体で見れば人民元安なのだから。
解読すると「対ドルでは人民元安でも他の通貨との関係では人民元高となる場合もあるので、全体としては人民元高になり得る」といった趣旨なのだろう。だとしても説明が下手すぎる。
また、今回の特集では田村賢司主任編集委員が「アベノミクスに新たな不安~日本直撃するチャイルショック 企業に激震、邦銀に損失懸念」というコラムを書いている。これもやはり問題ありだ。
◎説明として成立してる?
【日経ビジネスの記事】
イランはイスラム教内の宗派対立などでサウジアラビアと断交した。仮に戦争に至れば、両国が減産する可能性もいったんは指摘された。しかし、両国とも原油価格下落による石油収入減に苦しんでおり、断交も減産には結びついていない。
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「戦争になったら減産するかも」→「しかし、戦争になっても減産しなかった」という流れならば分かる。「国交断絶すれば減産するかも」→「しかし、断絶後も減産しなかった」でもいい。しかし「戦争になったら減産する
かも」→「しかし国交断絶後も減産しなかった」では、話の展開として成り立っていない。
例えば「殴り合いの喧嘩なんかしたら退学になるかもって、みんな心配してたんだよ。でも、いくら罵り合っても退学にならなかったんだよね」という話を聞いたらどう思うだろうか。「そりゃそうだろ。暴力事件を起こしたら退学になると心配してたのに、暴力を振るう事態には発展しなかったんだから…」と感じるのが自然だ。
ついでに言うと「イランはイスラム教内の宗派対立などでサウジアラビアと断交した」という書き方は感心しない。これだとイランが国交断絶を仕掛けたとの印象を持たれてしまう。「サウジはイランと断交」「イランとサウジが断交」などとしてほしい。
◎「3つの過剰」にダブり感あり
【日経ビジネスの記事】
人件費の上昇に加え、国有企業を中心として積み上がる債務、投資、設備の3つの過剰による不良債権の増大などで、中国企業の競争力に陰りが出ている。
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田村編集委員は「3つの過剰」として「債務、投資、設備」を挙げている。ただ、「設備」は投資の対象でもあるので、「3つの過剰」に入れると「投資」とのダブり感が出てくる。バブル崩壊後の日本に関して言われた「3つの過剰」は雇用、設備、債務。これだと重複は感じないが…。
今回の特集に執筆者として名を連ねているのは上海支局の小平和良記者、ニューヨーク支局の篠原匡記者、ロンドン支局の蛯谷敏記者、香港支局の白壁達久記者、それに田村賢司主任編集委員だ。
記事のレベルが低いのはある程度仕方がない。急に実力を付けろと言っても難しいだろう。しかし、間違い指摘を無視するのは看過できない。今回の特集で「前年同月比で伸び続けていた生産量も、2015年9月にシェール革命が始まって以来、初めて減少に転じている」と書いてしまったのは、書き手としての未熟さゆえだろう。しかし「シャール革命が始まったのは15年9月」と読めるのも間違いない。拙い説明を認めて反省すれば済む話なのに、それさえできないのは残念と言うほかない。
※特集の評価はE(大いに問題あり)。筆者に関しては、田村編集委員をD(問題あり)で据え置き、残りの4人を暫定でDとする。
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