消費税の増税を主張した新聞社が新聞に軽減税率の適用を求める--。これがいかに恥ずべき主張かは誰でも分かる。「国を守るために徴兵制を導入すべきだ」と声高に叫ぶ新聞社が「報道の使命を果たすため、新聞社の社員は兵役を免除してほしい」と求めているようなものだ。こんな新聞社がどんな末路を辿るかは自明だ。
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その辺りを日本経済新聞の論説委員も少しは分かっているのだろう。17日の社説には若干の遠慮を感じる。
【日経の社説】
この問題をかんがえるとき参考になるリポートがある。日本新聞協会の諮問を受けた法学者らによる「新聞の公共性に関する研究会」(座長・戸松秀典学習院大名誉教授)が13年9月にまとめた「新聞への消費税軽減税率適用に関する意見書」がそれだ。
「新聞は誇るべき日本の文化である」「新聞は日本全土のいたるところでサービスを受けられるようになっており、このユニバーサル・サービスこそが日本の民主主義の支柱であり、基盤である」と新聞への軽減税率の適用を是認した内容である。
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「日本新聞協会の諮問を受けた法学者らによる」ものならば、実態としては新聞業界の主張を代弁しただけだろう。それでも「自分たちが言ってるんじゃないんです。外部の方が新聞は『民主主義の基盤』だと言ってるんです。だったら、軽減税率の適用を受けてもおかしくないですよね」と日経の論説委員は訴えたいようだ。
これは、ややずるい書き方だが、「新聞社以外の人間が求めるから新聞に軽減税率を適用する」というのが基本線だとは思う。日本国民の圧倒的多数が「軽減税率を適用するならまず新聞に」と願っているのならば、軽減税率の適用に異論はない。
だが、現実はそれとは程遠い。1年ほど前、慶応大学の男子学生に「軽減税率が適用されるのは食品の他には新聞だけって決まったらどう思う」と尋ねたら、「新聞社が裏でうまいことやったんだなと思いますね」と返ってきた。多くの人がそう認識している中で、新聞社が軽減税率の適用を受け入れたらどうなるだろう。
日経ビジネスオンラインのコラムで小田嶋隆氏は次のように書いている。「新聞の定期購読料金の2パーセントに当たる金額が、一定の程度、新聞読者の新聞離れを回避させ、新聞社の経営状態の改善に寄与するのだとして、果たしてそれらが、その2パーセントを獲得するために彼らが失いつつあるものを補い得るものなのか。それを判断するのはまだこれからだ」。
「軽減税率の適用で新聞社が失うものは得るものより遥かに大きい」と個人的には思える。もう後戻りはできないはずだ。今回の日経の社説では「新聞は綿密な取材による真実の探求を通じて政府や企業などの統治に鋭く目を光らせ、権力をチェックする役割を果たす必要がある」と書いている。しかし、完成度の低い記事を垂れ流し、間違いを指摘されてもだんまりを決め込む日経に「真実の探求」や「権力のチェック」を語る資格はない。
なのに「民主主義の基盤」などと自らを称して軽減税率の適用を当然視する。その先に見通せるのは暗澹たる未来だけだ。
※かなり話がそれたが、日経ビジネスオンラインの「ピース・オブ・警句~新聞の軽減税率適用について」と、その筆者である小田嶋隆氏への評価はA(非常に優れている)とする。記事の誤りを握りつぶしている点などを考慮すると日経ビジネスに高い評価は与えられないが、今回のコラム掲載に関しては改めて敬意を表したい。
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