英彦山山頂(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です |
9月に茨城県常総市を襲った水害。このとき市内に住む2千人近いブラジル人には避難連絡が届かなかった。防災無線は日本語のみ。「もしポルトガル語と交互に流せば連絡を聞き逃す日本人が出たかもしれない」。県知事の橋本昌(69)は苦渋の表情を見せる。
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まず「このとき市内に住む2千人近いブラジル人には避難連絡が届かなかった」というのは事実かどうか怪しい。記事には「市内のブラジル人は全員が日本語を理解できない」との前提を感じる。「2000人近い」という人数は市内のブラジル人の総数のようだ。もちろん全く日本語を理解できない人もいるのだろうが、ほぼ全員が防災無線の内容を理解できないとは考えにくい。
県知事のコメントも謎だ。なぜ防災無線に関して「日本語のみ」と「日本語とポルトガル語を交互に流す」の二者択一なのか。ポルトガル語しか理解できない住民が例えば人口の10分の1程度ならば、防災無線も10回に1回はポルトガル語にすればいいのではないか。「苦渋の表情を見せる」必要はないだろう。
上記のくだりに続く説明も理解に苦しんだ。
【日経の記事】
外国人との共生がうまくいかないのは、災害時だけではない。深夜の大騒ぎ、ゴミ捨てのルール違反……。日々の暮らしでも言葉や文化の厚い壁が立ちはだかる。処方箋はないだろうか。
「英語は使わせてもらえないけど、気持ちは分かってくれる」。米国出身のマシュウ・カラシュ(48)が施設長を務める神奈川県鎌倉市の特別養護老人ホーム「ささりんどう鎌倉」ではフィリピン人など外国人ヘルパー4人が働く。外国人だからこそ悩みが分かる。言葉の壁を取り払うため、残業代を払ってでも日本語を教える。外国人が感じる不安や孤独を日本人スタッフに説明する「通訳」の役割も果たす。
介護現場の人手不足は深刻だ。厚生労働省は10年後の25年には介護人材が約38万人不足するとみる。即効薬は海外人材の受け入れだが、日本語の壁は厚い。こうした壁を崩す知恵が必要だ。
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そもそも特別養護老人ホームで働くフィリピン人ヘルパーは問題行動を起こして地域社会で軋轢を生んでいるわけではないだろう(少なくとも記事中にそうして説明はない)。「深夜の大騒ぎ、ゴミ捨てのルール違反」と同列に論じるべき話とは思えない。しかも、日常生活で生じる外国人との問題を解決するための処方箋を示しているのだと思って読み進めると、「介護現場の人手不足は深刻だ。厚生労働省は10年後の25年には介護人材が約38万人不足するとみる」と話が移っていく。
「深夜の大騒ぎ、ゴミ捨てのルール違反」などを解決する処方箋の話はどこかに行って、介護人材の不足へと脱線してしまう。結局、具体的な処方箋は示されていない。
さらに言えば「英語は使わせてもらえないけど、気持ちは分かってくれる」というコメントは誰が発したものか分かりづらい。最初に読んだ時は、直後に出てくる「米国出身のマシュウ・カラシュ」だと思った。しかし、それだと辻褄が合わない。おそらく「フィリピン人など外国人ヘルパー4人」の誰かだろう。誰のコメントか明確に分かる書き方を心がけてほしい。
最後に、人口問題に関して少し述べておきたい。記事では連載を以下のように締めくくっている。
【日経の記事】
1億人目標のハードルは高く、超高齢化もすぐには止まらない。衰退国への道筋を断ち切り、将来にわたって成長軌道に乗せるため、海外人材をいかに呼び込むか。幅広い視点からの国民的な論議が必要な時期に来ている。
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「人口1億人維持」というのは、あくまで政府の目標だ。取材班がこれに従う必要はない。なのに記事では「政府目標を実現するためにはどうすべきか」という形で話が進む。「日本の人口はどうあるべきなのか」を政府目標に縛られずに考えてほしかった。個人的には、日本の人口は1000万人もいれば十分だと思う。もっと少なくてもいい。この考えを支持しろとは言わない。「1億2000万人割れは絶対に防ぐ」でも「1億5000万人は欲しい」でもいい。どういう目標がベストなのかを自分たちで検討してほしかった。それがたまたま政府目標と一致したのならば問題はない。しかし、実際にはあまり深く考えず、政府目標を前提として受け入れているのではないか。
※17日の記事の評価はD(問題あり)、連載全体の評価はC(平均的)とする。取材班の最初に名前が出てくる小栗太氏を筆頭デスクと推定して、同氏の評価をE(大いに問題あり)とする。同氏のE評価については、今回の連載以外の記事も考慮に入れた。これに関しては「日経 小栗太氏 E評価の理由」で述べる。
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