大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です |
◎「大震災後、原油の輸入増が重荷」?
まず引っかかったのがグラフだ。「大震災後、原油の輸入増が日本経済の重荷に」とのタイトルを付けて「日本の輸入額に占める原油の割合」と「貿易収支」の推移を見せている。しかし、2つのデータにはあまり相関を感じない。「原油の割合」は1998年度を底に大きく上昇し2009年度にピークとなっている。その後は落ち込んで、震災後に若干上向くが、14年度に低下へ転じている。
貿易収支は09年度に若干の赤字になったものの、それまでは「原油の割合」が大きく上昇しても、ほぼ同レベルの黒字を維持している。11年度は「原油の割合」が上昇して、貿易収支は赤字に転じている。ここはタイトルと整合するが、14年度には00年代半ばの水準まで「原油の割合」が低下しているのに、貿易赤字が続いている。
日本経済にとって「原油高が重荷」なのはいつの時代も変わらないが、それをグラフでうまく表わせているとは思えない。
◎主導権が移りつつある?
【日経の記事】
「シェールガスの権益を買いませんか」。今夏、米国のシェールブームの火付け役ともいえるチェサピーク・エナジーのダグ・ローラー最高経営責任者(CEO)の姿が東京にあった。エネルギー関連企業などへ売り込みをかけるためだ。
シンガポールではプーチン大統領の側近で、ロシア国営石油最大手ロスネフチのセチン社長が弱気な発言で日本の業界関係者を驚かせた。「前払いならガスや原油の価格を割り引いてもいい」
原油安を受け売り手が握っていた交渉の主導権が買い手へと移りつつある。
2つの事例を使って「売り手が握っていた交渉の主導権が買い手へと移りつつある」と説明しているが、そうは思えなかった。原油高の局面でも、シェールガスの権益を東京に売り込みに来る米国企業のCEOがいて不思議ではない。「前払いならガスや原油の価格を割り引いてもいい」のも、常識的に考えれば当たり前の話で、これだけでは「弱気な発言」には聞こえない。例えば「前払いでも一切の割引を拒むのが通例だった」といった前置きがあれば、説得力が出ただろう。
ロシアの事例で、なぜシンガポールでロシアの石油会社の社長と日本の業界関係者が話をしているのか、全く説明がないのも気になった。
◎2013年は「シェールブーム初期」?
ただ時流に乗った期待先行の投資にはワナもある。シェールブーム初期の投資は教訓だ。
会計不祥事が発覚した東芝。13年に得た米国産シェールガスの液化権益が経営の重荷となる懸念が高まっている。火力発電用プラントと一括で売り込もうとの皮算用が、原油安で裏目に出た。住友商事も米テキサス州での開発投資で採算が悪化して15年3月期にシェール関連で約2千億円の減損損失を計上。伊藤忠商事も25%出資していた石油・ガス開発会社の全株をただ同然で手放した。
2013年を「シェールブーム初期」と位置付けているが、シェールガスの生産量が急増したのは00年代後半とされている。「ブームの初期」と言う場合、遅めに見ても00年代末だろう。
◎90年代に原油は「戦略物資」ではなかった?
1990年代、1バレル20ドル前後で推移した原油は戦略物資でなく市場調達できる「商品」とみなされた。民営化の流れもあり調達の要だった旧石油公団も廃止された。エネルギー政策は市況や時代背景とともに揺れた。
上記の説明はかなり意味不明だ。まず、原油は80年代まで戦略物資だったのだろうか。辞書で調べると「戦略物資」とは「戦争遂行上欠くことのできない食料・石油・重要金属などの物資」らしい。この定義からは「戦後の日本に戦略物資は存在しない」とも言える。国家備蓄制度もあるから、そういう意味で原油は戦略物資だと捉えることはできるかもしれない。その場合、国家備蓄をやめたわけでもないので、「90年代に戦略物資ではないとみなされた」とは考えにくい。
「戦略物資でなく市場調達できる『商品』とみなされた」との説明も違和感がある。「戦略物資は市場で調達できる商品ではない」との前提を感じるからだ。だが、多くの「戦略物資」は市場で調達できる。それは原油相場が1バレル100ドルを超えても変わらないはずだ。
※色々と問題点を挙げてしまったが、論旨はしっかりしているし、連載を通して何を言いたいかもかなり明確だった。そうした点を重視して、記事の評価はC(平均的)としたい。担当デスクとみられる稲井創一氏の評価も暫定でCとする。
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