アムステルダム(オランダ)市街 ※写真と本文は無関係です |
◎具体的なデータは?
米国市場で圧倒的な存在感を持つ金融商品が日本で徐々に広がっている。「ターゲット・デート・ファンド(TDF)」と呼ぶ年齢によって運用の中身が自動的に変わる投資信託だ。
NECは運用次第で将来の年金額が変わる確定拠出年金の運用対象に、このTDFを採用した。20~30歳代の社員が対象で、運用のゴールは2045年だ。
TDFの運用では若いうちは株式などのリスク資産に比重をかけ、退職年齢が近づくにつれて徐々に減らす。預金だけでは長期運用の効果が高まらない。運用知識が乏しい社員も一定額を無理なくリスク資産で運用できるようにする。それがTDF採用の狙いだ。
米国では年金運用の中核商品となっており、日本でもTDFが年金マネーをリスク資産に振り向ける原動力になる可能性がある。
「日本で徐々に広がっている」と言うものの、TDFがどの程度広がってきているのか具体的なデータはなし。米国での状況に関しても「圧倒的な存在感を持つ」「年金運用の中核商品」と書いているのに、これまた具体的なデータはない。これだけ数字を出さないと「本当は日本で広がっていないし、米国でもそれほど存在感はないのでは?」と疑いたくなる。
◎2割じゃダメなの?
日本の個人金融資産は1717兆円に及ぶ。うち株式や投信などリスク性の資産は2割弱で、5割近くある米国との差は大きい。眠れるマネーをどう生かすか。様々な模索が続く。
証券会社の立場から記事を書いているなら別だが、日本人の金融資産をもっとリスク性資産に振り向けようとする前提が理解できない。米国が5割で日本が2割だとしても、「米国の5割があるべき姿で日本もそこに近づくべきだ」とは言い切れない。個人的には米国が多すぎるような気がする。取材班が「日本の2割は少なすぎる」と判断しているのなら、その根拠を示してほしい。もちろん「米国に比べて少ないから」では根拠にはならない。
◎運用格差は投資知識に原因あり?
ニチレイは今春、新入社員向けに「金融リテラシー講座」を始めた。確定拠出年金の運用で社員に格差が出てきたからだ。「金融教育のない日本は投資知識が乏しい」と、担当する大野真は語る。
記事の通りならば、ニチレイの担当者は「運用成績に差が出るのは、投資知識に差があるからだ」と考えているのだろう。しかし、投資知識を同じ水準に揃えても、確定拠出年金の運用では必ず格差が出る。確定拠出年金では、リスクの異なる3種類以上の商品から投資対象を選ぶはずだ。異なる商品を選べば、投資知識が同水準でも運用成績に差が出てしまう。記事の書き方だとニチレイの担当者が愚かに見える。しかし、問題があるのは「書き方」の方だろう。
◎運用の巧拙、これまでは老後と無関係?
確定拠出年金法の改正案が9月初めに衆院を通過、公務員や専業主婦など新たに約2700万人が個人型の確定拠出年金を使える対象に加わる見通しだ。運用の巧拙が人々の老後の生活を左右するようになる。
上記のように書くと「これまでは資産運用の巧拙が人々の老後の生活を左右することはなかった」との前提を感じてしまう。もちろん、そうした前提は成り立たない。これまでも、そしてこれからも、資産運用の巧拙は老後の生活を左右し続けるだろう。
◎どうなれば「投資の時代」と呼べる?
「米国は確定拠出年金の成長に伴い投信市場が拡大した。日本は米国の後を追いかけている」と、モーニングスターの調査担当副社長、ジョン・レケンターラーは言う。確定拠出年金の広がりは、投資の時代の扉を開く可能性を秘める。
「投資の時代の扉を開く可能性を秘める」と書いているので、「現在は投資の時代ではない」との前提があるのだろう。しかし、どうなれば「投資の時代」と呼べるのかは謎だ。
「米国で家計金融資産に占める投信の比率が5%を超えたのが86年。様々な制度の整備や株高を追い風にその後、市場が拡大し今では15%弱にまで達した」という記述があるので「5%超え=投資の時代到来」かと思わせる。しかし、直後に「5%の節目を日本は2014年に突破している」と出てくるので、この推測も当てはまらない。
結びでも「投資の時代に向け個人の知恵と覚悟が問われている」と出てくるが、結局は「どうなれば『投資の時代』と言えるのか」「なぜ今は『投資の時代』と呼べないのか」が最後まで分からなかった。
※記事の評価はD(問題あり)。川上穣、増野光俊、堤正治の各記者と小平龍四郎編集委員の評価はDを据え置く。田口良成、成瀬美和、野口和弘の各記者は暫定Cを維持する。
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