2015年7月3日金曜日

日経 「人口病に克つ ~少子化にあらがう」への注文(1)

日経の朝刊1面で「人口病に克つ~少子化にあらがう」という連載が始まった。3日付の第1回「14年の出生率、1.42に低下~社会で育む認識共有を」は気になる部分が多かった。いくつか注文を付けてみたい。

◎具体例は具体的に

【日経の記事】

ブリュッセルの聖ミッシェル大聖堂 ※写真と本文は無関係です

フランス西部のナント市。シングルマザーのカトリーヌ・プリウ(31)の朝は娘のリア(7)を小学校、息子のアイデン(2)を託児所に送ることから始まる。人材派遣会社の職を失い、新しい仕事を探す毎日だが、悲愴(ひそう)感はない。
フランスでは託児所や低所得者住宅が整い、潤沢な子ども手当などで生計が成り立つ。金銭面だけでなく、女性が出産後も働くことへの理解が進む。2歳以下の子どもを持つ女性の約半数がフルタイムで働くが、平均労働時間はフルタイムでも1日8時間未満と残業が少ない。社内託児所を設置し、子どもとマイカー通勤ができるように駐車場に専用スペースを設ける企業もある。求職中でも託児所を使えるなど保育体制が充実し、社会全体で仕事と育児の両立を支える仕組みが整う。


せっかく「カトリーヌ・プリウさん」を登場させているのに、具体例として機能していない。彼女がどれぐらいの手当てをもらっていて、家賃などの生活費はどの程度なのかといった情報はなし。彼女のコメントも出てこない。これならば、わざわざ登場させる必要はない。

フランスの子育て支援策も具体的な情報はほとんどない。「託児所や低所得者住宅」は整っていて、「子ども手当」は潤沢らしいが、具体的にどう整っていて、どの程度の潤沢なのかは不明。日本との比較もない。「社内託児所」は日本でも珍しくないし、地方では子供とマイカー通勤ができるのも普通だ。しかも、記事に出てくるフランスの「専用駐車場」にどんなメリットがあるのかも謎だ。「休職中でも使える託児所」は日本にもあるだろう。フランスは「休職中でも無料で使える託児所」なのかもしれないが、記事中に説明がないので何とも言えない。

カトリーヌ・プリウさんが子ども手当てなどでいくらぐらい得ているのかを入れるだけでも、話に具体性が出て日本との比較を実感しやすいのだが…。

◎晩産化と関係ある? 

【日経の記事】
翻って日本。仕事と育児の両立は厳しく、晩婚化・晩産化の動きが止まらない。14年の出生率は1.42に低下した。


「日本では仕事と育児の両立は厳しい」という見解を受け入れるとしても、晩婚化とどう関係するのか理解できない。両立が難しいならば、結婚しても子供を作らなければ済む。

晩産化との関係も微妙だ。仕事と育児の両立がどんどん難しくなっているから、出産年齢が年々高まっているのであれば、「仕事と育児の両立が難しいから晩産化が進む」と言われても納得できる。しかし、むしろ逆ではないのか。「昔に比べれば両立が容易になっているのに、出産年齢の上昇が止まらない」というのが実態だろう。それとも、20年前や30年前の方が簡単に両立できたのだろうか。

「両立が難しいから14年の出生率が低下した」と取れる書き方も気になる。取材班でも当然分かっているはずだが、14年の出生率低下は9年ぶりだ。つまり、それまでは低下に歯止めがかかっていた。14年の低下を「両立が難しいからだ」と分析するならば、その前までの動向を基に「両立が難しくても出生率は引き上げられる」とも言えるだろう。


※(2)へ続く。

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