【日経の記事】
アムステルダム(オランダ)のダム広場 ※写真と本文は無関係です |
【ワシントン=矢沢俊樹】米連邦準備理事会(FRB)は8日、6月16~17日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。原油安とドル高の一服で物価の下押し圧力が後退し、低インフレ状態から脱却する公算が大きいと指摘した。ただ、ギリシャ情勢と中国経済の減速が米経済の足を引っ張りかねず、6月は利上げの慎重論が大勢だった。
FOMCは6月会合で事実上のゼロ金利政策を維持した。FRBのイエレン議長は会合後の記者会見で数カ月間の経済指標が良好ならば「年内利上げが適切」と発言した。早ければ9月のFOMCで利上げすると示唆した。議事要旨は焦点の利上げを巡り「大半のメンバーは金融引き締めの条件はまだ達成されていない」と指摘した。性急な政策判断をいさめる声も多く出た。
何人かのメンバーはすでに利上げ可能な状況、もしくは、近く環境が整うと主張した。だが「成長力と雇用が強まり、インフレ率が上昇へ動き出したデータを待つ必要がある」との慎重論が主流を占めたことを示した。
利上げの大きな障害とみられる米国の低インフレを巡り、ドル高に伴う輸入物価と原油の下落傾向に歯止めがかかったことで「インフレの下方圧力は後退していく」との指摘が相次いだ。雇用改善で賃上げの動きが広がりそうな点を評価する声も増えた。個人消費の底堅さも含め、米経済の足腰は総じて強まっているとの見解をにじませた。
記事から判断すると、FOMCの委員の多くが「米国は低インフレから脱却する公算が大きい」と指摘したように思える。その前提で読み進めると、「『インフレ率が上昇へ動き出したデータを待つ必要がある』との慎重論が主流を占めた」との記述に出くわす。ならば「低インフレから脱却する公算が大きい」と多くの委員が指摘したのかどうか疑問が湧く。
推測するに、「インフレの下方圧力は後退していく」との指摘が相次いだことを根拠に、矢沢記者は「低インフレ状態から脱却する公算が大きいと指摘した」と書いたのだろう。しかし「インフレの下方圧力は後退していく」とは「物価を押し下げる力が弱まる」ことを意味するはずだ。ここから「低インフレから脱却」と解釈するのは飛躍がある。
物価を押し下げる力が弱まれば、低インフレからデフレに移行するようなリスクは減るだろう。しかし、「低インフレを脱却」するかどうかは別問題だ。「インフレ率が上昇へ動き出したデータを待つ必要がある」と多くの委員が考えているのであれば、「物価を押し下げる圧力は低下したが、それが2%の物価目標の実現につながるものかどうか、もう少し見極める必要がある」といったところではないか。議事要旨をざっと読んだ感じでも、そういう理解が適切だと思えた。
ちなみに毎日新聞は「『利上げ時期は慎重判断の姿勢』6月議事要旨」という記事で以下のように書いている。
【毎日の記事】
FRBは6月会合から、利上げの可能性を排除しない方針を打ち出していたが、大多数の委員は「雇用情勢が一段と堅調になり、(低迷する)物価上昇率を上向かせることが必要だ」と主張。委員1人は「既にそうした状況に向け、合理的な確信が持てる状況。準備は整った」と述べたが、今後1、2回の会合までに出る経済指標を見極める考えも示し、利上げ見送りで全員が一致した。
日経の「米、低インフレ脱却近い」という見出しからは「利上げの環境が整いつつある」との印象を受ける。だが、他のメディアの報道を見ると、むしろ「まだ整っていない」の方に傾く。日経が独自の解釈をするのは構わないが、記事の中身を見ると整合性に問題があり、完成度としても上記の毎日を含め他社に劣っていると言わざるを得ない。
※矢沢俊樹記者の今回の記事については他にも気になる点があるので、(2)で指摘を続ける。
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