2015年7月13日月曜日

週刊ダイヤモンドが犯し続ける悲しい過ち 

週刊ダイヤモンドがまたも明らかな誤りを放置したようだ。編集部全体として「間違い指摘を握りつぶしても問題ないんだ」と決め込んだようでもあり、このままメディアとして堕ちていく可能性が高い。悲しいことだが、引き留めるのは難しい。問題の記事を書いた4人には以下の内容でメールを送信した。そして、返信はないだろう。

記者の評価は山口圭介副編集長を暫定DからF(根本的な欠陥あり)に格下げする。暫定でDと評価していた大坪雅子、鈴木崇久様 竹田孝洋の各記者も格付けをE(大いに問題あり)に引き下げる。山口副編集長が今回の記事の責任者だと推定し、評価を厳しくした。

※この件は「ダイヤモンド『瀬戸際戦術続けるギリシャ』 2つの誤り」を参照。


(注)結局、回答はなし。「2009年1月」に関しては、7月25日号に訂正が出た。


【ダイヤモンド編集部へ送ったメール】

週刊ダイヤモンド 大坪雅子様 鈴木崇久様 竹田孝洋様 山口圭介様

デュルブイ(ベルギー)のフォワール広場 ※写真と本文は無関係です
週刊ダイヤモンド7月11日号「瀬戸際戦術続けるギリシャ~想定外のユーロ離脱はあるか」という記事について6日に2つの間違い指摘をしました。「ギリシャ危機の発端は、2009年1月に巨額の財政赤字が発覚したことだ」との記述で「2009年1月」は「2009年10月」ではないかというのが1つ。もう1つは「08年、リーマンショックがギリシャと南欧諸国に飛び火する」との説明のうち「08年」は「09年以降」の誤りではないかというものです。問い合わせから1週間が経過しても何の回答もありませんし、7月18日号に訂正も出ていませんでした。

「記事の説明は2つとも誤りだが、指摘は無視して訂正は出さない」というのが編集部の判断だと推定し、その前提に基づいて意見を述べさせていただきます。

明らかな誤りを指摘されたのに無視して握りつぶすというのは、メディアとしての自殺行為だと考えています。これに関しては後で出てくる「ダイヤモンド編集長へ贈る言葉」と「櫻井よしこ氏への引退勧告」を参照してください。

今回、「明らかな誤りだが、無視してしまおう」という結論に達したのは、私が櫻井よしこ氏のコラムの誤りに関して再訂正を求めて無視された件と関係があると推測しています。編集部としては一度握りつぶしてしまったのですから、「今回は指摘を受け止めて訂正を出そう」とはなりにくいでしょう。そして、上司が「握りつぶす」と決めてしまえば、部下である記者が「メディアとして恥ずべき対応だ」と感じたとしても、従うしかないのかもしれません。

「瀬戸際戦術続けるギリシャ~想定外のユーロ離脱はあるか」という記事に関わった4人の記者のみなさんがどう考え、編集部内でどういう行動を取ったのか私には分かりません。「こんなのおかしい」と思いながらも、上司の命令で回答を控えたのかもしれません。しかし、署名入りで記事を世に送り出している以上、責任は問われるべきです。特に副編集長の山口様の責任は重いと言えます。

「明白な誤りを読者から指摘されたのに無視して握りつぶした」という事実は、皆さんの記者人生に残る大きな汚点です。「記事を書く資格がない」と断じられても仕方ないでしょう。同情の余地があるのは承知の上で、一読者として皆さんには厳しい評価を下すしかありません。そして、そのことを重く受け止めてください。

鹿毛秀彦


※以下の「ダイヤモンド編集長へ贈る言葉」は編集部宛のメールアドレスに送信するとともに、ブログにも掲載しました。「櫻井よしこ氏への引退勧告」はブログに掲載したものです。記者を続けていく上で役立つ内容だと自負しているので、ぜひ読んでください。


◆ダイヤモンド編集長へ贈る言葉

週刊ダイヤモンド編集長  田中博様

6月13日号の「訂正とお詫び」の中で「60歳を超えると、毎年、年代層に応じて数日間の軍事訓練を受ける義務も負う」との記述を「60歳になるまで」に訂正された件で、私は再訂正を求めました。しかし、6月20日号に続き、6月27日号でも再訂正は掲載されませんでした。6月7日に訂正記事の内容が誤りであることをお伝えし、その後もメールや電話で回答を求めていますが、完全に無視されています。間違い指摘から2週間以上が経過しており、「訂正記事の内容には誤りがあるが、再訂正はしない。指摘に関しては、無視を貫く方針である」と推察するしかありません。この前提に基づいて、一読者としての意見を申し上げます。

「記事を作る側の人間には超えてはいけない一線がある」と私は考えています。明らかな誤りを握りつぶしてしまった方が組織内で大きな波風を立てずに済む場合も多いでしょう。しかし、一度そのやり方に手を染めてしまえば、記事の作り手としての信頼と資格を決定的に失ってしまいます。例えば、社外の知り合いから「訂正記事の中に明らかな誤りがあったのに、握りつぶして無視したって本当ですか?」と問われたら、何と答えますか。「雑誌編集者として後ろめたいことは何もしていません。あれは握りつぶすのが正解です」と胸を張って言えますか。

訂正の訂正は避けたいという気持ちは理解できます。筆者の櫻井よしこ氏が再訂正に強く抵抗している可能性もあるでしょう。櫻井氏の機嫌を損ねて厄介な状況に追い込まれるのは、会社員として致命的なのかもしれません。そうした事情があったとしても、越えてはいけない一線を越えるべきではありません。今もダイヤモンドのサイトには、スイスの徴兵制に関する間違った記述が堂々と載っています。間違いだと気付いているのに放置しているのです。これを読者への裏切り行為と呼ばずして、何と呼べばよいのでしょう。

今回のように間違い指摘を握りつぶしてしまえば、今後の記事で企業の不祥事を批判しても説得力は皆無です。自社製品の欠陥を消費者から指摘されていたのに放置して問題を大きくしてしまったメーカーがあるとしましょう。そのメーカーを週刊ダイヤモンドの誌上で批判できますか。「社内の管理体制に問題がある」「消費者軽視の企業体質を改めるべきだ」などと書けば、その批判は自分たちにそのまま戻ってきます。しかし、取材対象に注文を付ける資格のないメディアでは、存在意義がありません。だから、歯を食いしばってでも、間違い指摘に対してまともな対応をすべきなのです。

私には「一線を越えてはダメだ」と助言することしかできません。今回の対応を見る限り、もう迷いはないのでしょう。雑誌の編集者を志した時には、明らかな誤りを握りつぶして保身へ走る側に回るとは思いもよらなかったはずです。しかし、経験を重ねる中で初心を忘れ、足を踏み入れてはいけない場所へと歩を進めてしまいました。それが残念でなりません。

堕ちてしまった向こう側の世界には、どんな風景が広がっていますか。


◆櫻井よしこ氏への引退勧告

櫻井よしこ様

週刊ダイヤモンド5月30日号のコラム「オピニオン縦横無尽」を拝読しました。その中で「スイスは男女を問わず、国民は徴兵の義務を負う。60歳を超えると、毎年、年代層に応じて数日間の軍事訓練を受ける義務も負う」と書いておられました。最初に読んだ時、「60歳を超えると軍事訓練を受ける義務を負う」との説明に驚きました。「20歳」と書いてあるのが「60歳」に見えたのかと思って、読み直したほどです。そこでスイスの徴兵制について調べてみると、「60歳を超えると軍事訓練の義務」も「女性にも兵役の義務」も誤りだと気付きました。

5月25日にダイヤモンド編集部へ問い合わせをし、記事の担当者から同月30日に「記事中の説明は誤り」との回答を頂きました。時間がかかったとはいえ、誤りを認めたことは評価しています。ただ、6月13日号に載った訂正記事にも誤りがあり、これは訂正されていません。

今回の件で「櫻井よしこ氏は書き手としての基礎的な能力を失っている上に、モラルの面でも重大な欠陥を抱えている可能性が高い」と判断するに至りました。これからその理由を説明します。

まず、間違いの内容です。私自身もミスの多い人間なので、他人のミスを責めるのは少し気が引けます。記事中で「30億5000万円」をうっかり「30億5000円」と書いてしまった記者がいても、「書き手としての資質に欠ける」と責めたりはしません。しかし、例えば巨人の原辰徳監督(現役時代は三塁手などとして活躍)を「現役時代は名投手として知られた阪神の原辰徳監督」と説明する執筆者に対しては、基礎的な資質に欠けると断じるしかありません。

今回の櫻井様の誤りは、これと同等の事例です。スイスに関して「男女を問わず徴兵の義務を負う」「60歳を超えると軍事訓練を受ける義務も負う」と立て続けに事実と全く異なる説明をしてしまいました。しかも、「60歳を超えると」に関しては、「60歳までは」と認識していたのに、なぜか筆が滑ってしまったそうですね。「高」「安」や「増」「減」ならば、うっかり逆に書いてしまうかもしれませんが、「60歳までは」が「60歳を超えると」になってしまうのは、通常では考えられません。百歩譲ってあり得るとしても、記事をチェックする段階で容易に気付くはずです。

私の間違い指摘に対して、「かつて女性にも兵役がありましたが、現在は任意とされています。この点で、男女を問わずというのは少し古い情報で、間違いです」と櫻井様は説明されました。しかし、これも間違いです。スイス大使館へ確認したところ、「現在も過去にもスイスの女性に徴兵制の義務はありません」との回答を得ました。

では、「60歳になるまで」への訂正は正しいのでしょうか。スイス大使館によると、同国では「兵役は19歳より34歳までが義務、中佐が36歳まで、それ以上の将校に関しては52歳まで」だそうです。櫻井様の場合、スイスに関する基本的な説明でコラムの中に2つの誤りがあり、実際はどうなのかと改めて調べてみても、2つとも正しい答えには辿り着けなかったのです。このままの状態で記事を世に送り出し続ければ、どんな結果が待っているかは説明するまでもないでしょう。

私は櫻井様について、よくは知りません。過去に何度かコラムを読んだ程度です。なので、以前から今のような状態なのか、加齢など何らかの要因によって能力が低下しているのかは判断できません。しかし、記事の執筆に当たって基本的な事実確認を今の櫻井様に任せるのは、非常に危険だと断言できます。

書き手としての誠実さにも、重大な疑義が生じています。6月13日号の「訂正とお詫び」では「60歳を超えると」を「60歳になるまで」に訂正しています。「これは誤りではないか」との私の指摘に対し、編集部も櫻井様も沈黙を守ったままです。誤りとの指摘を否定できないのに、再訂正をためらうのであれば、櫻井様に記事を書く資格はありません。

編集部から櫻井様に必要な情報が届いていない可能性もあるので、「誠実さに欠ける」と断定はしません。それでも、これだけは言えます。書き手としての良心を今も持っているのであれば、「訂正の訂正」から逃げないでください。

私は櫻井様に何の恨みもありません。ただ、週刊ダイヤモンドの一読者として、連載コラムは高い資質を持った書き手に任せてほしいと願っているだけです。そして残念ながら、櫻井様はその期待に応えられる状態ではありません。なので、櫻井様に「書き手としての引退」を強く勧告します。それは読者の利益になると同時に、櫻井様の名誉を守る最善の方法でもあると確信しています。

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