2015年6月9日火曜日

「逆手」になってる?  ~日経「収益拡大 持続の条件」

「逆手に取る」とは「機転を利かせて不利な状況を活かすこと」という意味だ。8日付の日経朝刊1面に掲載されていた「収益拡大 持続の条件(下)」には、「リスク逆手に積極戦略」との見出しも付いているが、本当に「リスク逆手」なのか疑わしい内容になっている。記事の後半を見てみよう。

グラン・プラス(ブリュッセル)のギルドハウス
                   ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

様々なリスクをはらむとはいえ、中長期で見るとさらなる海外展開は不可欠。リスクを踏まえた地域別の事業ポートフォリオを組み立てるため、新たな戦略が求められている

逆風を逆手にとり成果を上げているのがOKIだ。人件費が高騰する中国で、窓口業務の従業員確保に悩む金融機関向けにATMを販売。ニセ札などを高い確度で識別する技術をテコに中国事業を拡大し、20年ぶりの最高益につなげた。

ヤクルト本社は地域バランスを意識し、将来の成長へ布石を打つ。「まだ7億人が未開拓」(川端美博副社長)として中国の拠点設立を進める一方、ミャンマーやアラブ首長国連邦(UAE)へ進出を決めた。富士フイルムホールディングスは、製品力だけでなく日本のファッション人気に訴えて、インスタントカメラ「チェキ」の販売をアジアや東欧で伸ばしている。

グローバル市場で稼ぐための最適解をどう見いだすか。経営者の覚悟と環境変化への対応力が試される。


ここでは、問題点を3つに分けて説明したい。


(1)「逆風を逆手」は「リスクを逆手」?

本文では「逆風を逆手」となっているが、見出しは「リスクを逆手」だ。見出しの「リスク」は本文の「リスクを踏まえた~」から取ったのだろう。「意味が全く違ってくる」とは言わないが、整合するとも言い難い。当該記事の場合の「逆風」は過去あるいは現在の話だが、「リスク」となると将来に重心が移るような気がする。


(2)OKIは「逆風を逆手」?

記事で言う「逆風」とは、「人件費の高騰」だろう。もちろん、現地で事業を展開していれば、人件費の高騰によるマイナス面はあるはずだ。しかし、人件費の高騰を契機に自社製品への需要が急増して、コスト増加を上回る収益拡大が実現できているのであれば、むしろ「順風」と言うべきだろう。企業戦略関連で「逆風を逆手」と表現してピッタリ来る状況はなかなかない。この表現は慎重に使いたい。例えば、ブラック企業のイメージが染み付いた居酒屋チェーンが「We Are Black」という新業態の居酒屋を出したところ、「面白い」「潔い」などと評判になり、業績が急回復した--といったケースならば「逆風を逆手」でしっくり来る。しかし、やはり事例は少なそうだ。


(3)ヤクルト本社と富士フイルムは「新たな戦略」?

ヤクルト本社と富士フイルムの話も、どういう位置付けなのか判断が難しい。構成から考えて「逆風を逆手」ではないだろう。「リスクを踏まえた地域別の事業ポートフォリオを組み立てるための新たな戦略」の具体例と解釈するのが自然だ。しかし、新たな戦略かどうかは微妙だ。ヤクルト本社に関しては、「多少逆風が吹いても、変わらず新興国で手を広げていきます」ということであれば大枠としては「従来の戦略の継続」に過ぎない。富士フイルムに至っては「日本のファッション人気に訴えること」ぐらいしか新しさがない。これを「新たな戦略」と言われても、ちょっと苦しい。


※あれこれ注文を付けてきたが、致命的な問題はない。「上」「下」を通じて全体としては、うまく話をまとめていた。記事の評価はC。成瀬美和、遠藤賢介の両記者への評価もC(暫定)とする。

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