2015年6月4日木曜日

「税金考」を考える(3)

3日付の日経朝刊1面に出ている「税金考(2)~貴族になりたい」もやはり苦しい。記事の中身を見てみよう。


【日経の記事】
グラン・プラスに建つブラバン公爵の館(ブリュッセル)
                        ※写真と本文は無関係です

千葉県南房総市。初夏の風にそよぐ竹林の音が心地良いが、すぐ隣に自宅を構える坂本寿成さん(73)には不愉快な雑音だ。「イノシシの親子が7匹でタケノコを食べに来る。帰りにうちの田んぼを荒らす」

かつてのトウモロコシ畑は数十年放置されたあげく、竹が生い茂った。「伐採してもらいたい」。坂本さんはこう思うが、持ち主は行方が分からない。

全国40万ヘクタールと滋賀県の面積に匹敵する耕作放棄地。千葉は県面積に占める放棄地が3.5%と最大だ。放置しておくのは「税金が安いから」(坂本さん)だ。

農地は固定資産税の基礎になる評価額が低い。南房総市役所によると、竹林付近の評価額の相場は1平方メートル60円ほど。坂本さんの自宅の土地が8050円だから134分の1だ。

昨年秋。秋田市の農業生産法人が南房総の放棄地を菜の花の栽培用地にまとめて借りようとした。だが数十人の放棄地の持ち主の同意が得られずあきらめた。農協改革などで岩盤規制を崩すと、その奥底には放棄地ですら安い税金を享受できる「岩盤税制」がある。

税金優遇は中世の貴族の特権のようだ。そんなにおいしいなら誰だって「税金貴族」になりたい


上記の説明はよく考えると理屈に合わない。耕作放棄地の固定資産税が安いのは確かだろう。しかし、「秋田市の農業生産法人が南房総の放棄地を菜の花の栽培用地にまとめて借りようとした」時に「数十人の放棄地の持ち主の同意が得られずあきらめた」ことと税の安さは基本的には関係ないはずだ。税負担が少ないとは言え、耕作放棄地でも税のコストはかかる。一方、耕作を放棄しているのだから、そこから得られる収益はゼロのはずだ。つまり、秋田市の農業生産法人に貸した方が合理的だ。

「他人に貸すのは気が引ける。だから、税金分だけ損だと分かっていても貸したくない」といった考えの人がいるかもしれない。しかし、経済合理性の観点からは、今の税制でも貸した方が得だ。記事では、土地を貸さない理由を税負担の軽さに求めているようだが、少なくともそれが主な理由ではないはずだ。

そんなにおいしいなら誰だって『税金貴族』になりたい」との主張にも同意できない。自分が南房総の耕作放棄地の持ち主で、土地を貸すという選択肢がないのであれば、「税金貴族」でいたいとは思わない。 地価を横ばいだと仮定すると、税負担の分だけ収益的にはマイナスだ。「税金貴族」でいても、経済的なメリットはない。個人的には、「税金貴族」の立場を捨ててでも、土地を売却したくなる。やはり「税金貴族」と名付けることに無理があるとしか思えない。


※記事の評価はD。

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