ヴェンツェルの環状城壁(ルクセンブルク) ※写真と本文は無関係です |
(下)はさらに苦しい。まず「金利が下がると債券価格は値上がりする」と書いているが、「価格は値上がりする」は重複表現だ。「債券価格は上がる」「債券は値上がりする」としてほしい。市場関係の記事を書くならば、入社1年目に覚えておくべき基本だ。それがデスクも含めてできていないことになる。
全体の構成も無理がある。具体的に見てみよう。
【日経の記事】
年金給付を賄うには現金収入が欠かせない。本来、債券は長く持って利息を得るのが常道だ。だが、世界中で金利が極端に下がり、「債券運用のあるべき『解』が見えなくなっている」(伊藤忠企業年金基金の今沢恭弘運用執行理事)。
債券の穴をどう埋めるか。答えを探して、今沢氏のチームは昨年末から4カ月かけてロンドン、ニューヨークの運用会社を訪ね歩いた。お目当ては水道やガス、発電、交通などのインフラに投資するファンドの発掘。当初は30億円を投じ、最大100億円程度まで投資枠を積み増す計画だ。想定利回りは5~8%で、貴重な現金収入になるはずだ。
株式や債券などの従来型運用以外に手を広げる代替投資は、ここ20年ほどで急拡大した。米コンサルティング会社タワーズワトソンによると、昨年末時点で主要7カ国の年金資産(公的年金を含む)約34兆ドルの25%を占めている。
なかでも最近、存在感が高まっているのがインフラへの投資だ。京セラの企業年金は2013年度から太陽光発電ファンドへの投資を本格的に開始し、売電収益の分配を受けている。英国でも、年金基金協会主導でファンドがつくられ、小売り最大手のテスコなど複数の企業年金がインフラ投資拡大に動いている。
00年代半ばまでは日本を含めてヘッジファンドブームが代替投資の拡大をけん引したが、金融危機後に運用成績が低迷。欧米の公的年金が相次いで投資を廃止するなど今は下火になっている。
脚光を浴びるインフラ投資だが、関連ファンドの市場規模は数千億ドルにとどまるとみられる。資金の急激な流入でファンド内に滞留する現金が膨らみ、大型案件の争奪戦で割高な条件の投資が増えるなど過熱感も出ている。市場規模の面だけをみても、債券やヘッジファンドなどの代役には限界がある。
問題点を列挙してみる。
◎代替投資は拡大してる?
「代替投資は、ここ20年ほどで急拡大した」と書いた後で「00年代半ばまでは日本を含めてヘッジファンドブームが代替投資の拡大をけん引したが、金融危機後に運用成績が低迷。欧米の公的年金が相次いで投資を廃止するなど今は下火になっている」とも解説している。これでは読者を迷わせるだけだ。後ろのくだりは「代替投資が下火」ではなく「ヘッジファンドブームが下火」だと言いたいのだろう。そうも取れるが、「投資を廃止する」の文言が「代替投資を廃止」と連想させることもあり、「代替投資が下火になった」と解釈したくなる。
◎株式投資ではダメ?
「債券での運用が難しくなり、その受け皿として代替投資、中でもインフラ投資が注目を集めている。しかし、市場規模が大きくないので限界がある」と記事では述べている。これも疑問だらけだ。まず、「債券が厳しいので代替投資へ」と言われると「なぜ株式ではダメなのか」と思ってしまう。ところが、記事には説明がない。「年金給付を賄うには現金収入が欠かせない」と書いているので、「現金収入」が関係あるのかもしれないが、株式投資でも配当収入は得られるし、売却すればもちろん現金化できる。「株式ではダメ。代替投資でないと」という理由があるならば、記事中で明示すべきだ。
◎「未曾有の運用難」?
「(インフラ投資は)市場規模の面だけをみても、債券やヘッジファンドなどの代役には限界がある」のはその通りかもしれない。しかし、だからと言って「未曾有の運用難」だとの説明には同意しかねる。既に触れたように「なぜ株式ではダメなのか」との疑問が残る。さらに言えば、代替投資では不動産やコモディティーも対象のはずだ。インフラ投資に限界があっても、「ゆえに代替投資では限界ある」とはならない。記事の筋立てに無理があるのではないか。
記事の評価はD。黄田和宏、堤正治、武田健太郎、松本裕子、野口和弘の各記者の評価もD(暫定)とする。
0 件のコメント:
コメントを投稿